近況。

現在発売中の『エンタミクス』9月号に「全国3000店の書店員と選んだNEXTブレイク漫画RANKING BEST50」という恒例企画が掲載されている。俺もアンケートに回答したんだがまたコメントが採用された。元々頭の悪い文章なのに二つの項目の回答を編集側に勝手に結合されて更に頭の悪い文章になっているのが可笑しい。

日曜日に藤津亮太さんの講座「アニメ映画を読む 『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』」に行ってきた。

24日の日曜日にSBS学苑パルシェ校の講座「アニメ映画を読む」*1を聴きに行ってきた。講師は藤枝市出身のアニメ評論家・藤津亮太さん。
「アニメーション映画をとりあげ、その作品の成り立ち、特徴を分析し、どう「読んでいくか」深く読解していきます。」(今回の告知チラシより)
というのが基本内容で、昨年までは三ヶ月に一度の開催だったが今年から隔月になり、「アニメ不毛の地」と呼ばれる静岡県にしてはなかなかの盛り上がりを見せているのだった。俺は2年前に初参加して以来、毎回何かしら新しい知見とか解釈を得られるのが無性に楽しくて、ほぼ皆勤で参加している。前回の「女子向けアニメの歴史〜魔法使いサリーからプリキュアまで〜」が体調を崩し欠席となったのは、個人的な関心領域とも重なっていただけに無念であった。

今回のお題は「大人も楽しめるキッズアニメ」で『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』と『映画クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の2本。
冒頭の挨拶でSBS学苑の鷹森氏が仰っていたように、7月22日に「ポケモンGO」が配信されたばかりでポケモン映画を取り上げるというのがなんともタイムリー。この日も朝からバスの中や駿府城公園で、一人であるいは集団でスマホの画面を熱心に覗き込んでいる人たちの姿を見た。ちなみにSBS学苑パルシェ校の中にもポケモンがいたそうで、業務中に捕まえた職員さんもいるとかいないとか。
俺はポケモンは最初のテレビシリーズをたまに見たくらいで、ゲームの方もゲームボーイで「緑」を途中までやった程度、クレヨンしんちゃんは原作も読んでないしアニメも見たことがない。事前にレンタルDVDで見たら、子供向けにしてはけっこうハードな内容という印象だった。
ミュウツーの逆襲』に関しては、タイトルが出て来るまでがやけに長くて意味ありげなので、そこに登場したキャラクターが後に話に関わってくるのかと思っていたら出て来ず、そのためミュウツーがやけにあっさりと納得してしまった感じがして、話としてはもう一山あってもいいんじゃないか(でも子供向けだし上映時間が長くならないための配慮だろうか)と思っていた。レジュメによるとその冒頭部分はラジオドラマ『ミュウツーの誕生』のエッセンスを映像化したもので、映画公開時にはなかったが現在のDVDで追加されたらしい。見た後でそれを知れば、おまけ映像だから本編との絡みはなかったのかと納得できて違和感は解消された。しかし初見の人にあらぬ期待を抱かせてしまう構成は罪作りじゃないかな、という一抹の不満は残った。
ポケモンの「テーマ」を読み解いてそこから導き出される最終回、という一連の流れが興味深かった。首藤剛志てそこまで考察を進めた上でポケモンに参加してたんだな。脚本家の仕事の凄まじさを感じた。一瞬だけ画面に写ったフジ博士の顔のモデルがあの人だったというのは驚いた。誰かに似てるなあとは思っていたんだけど、言われてみればという感じ。

で、ここまでの情報量で頭の中が飽和してしまい『オトナ帝国の逆襲』については話を聴きながらもあまりものが考えられなくなっていた。本来はそれぞれで独立した講座だったけれども今回は集客を鑑みて2本まとめたと藤津さんが仰っていたが、個人的にはいっぱいいっぱいでありました。レジュメのボリュームもいつも以上だし。『オトナ帝国の逆襲』はクレヨンしんちゃんのことを全く知らない人間が見ても面白かったので、これ1本の講座というのも受講してみたかったと思った。題材的にも興味のあるものがたくさん登場しているし、ケンとチャコというキャラクターにも何か惹かれるものがある。レジュメの「※ここからは妄想」の箇所は重大な示唆だと感じた。考える材料はいろいろ提示して頂いたので、もう一度見返した後にまたレジュメを読んでみようと思う。
(受講後2日目の夜に思考を彷徨わせている時、ふいにチャコと青春アニメ全集あすなろ物語」の冴子が重なって見え出したのは何故だろう。戯言。)
隣席の長@弾さんが、野原一家とケン&チャコがアパートに集合したシーンでウルトラセブンを思い出しましたと言ったのに対し、メトロン星人の回ですよねと即答したくらいには俺もそう思っていたのだった。古いアパートの夕陽の差し込む畳敷きの部屋でちゃぶ台を挟んで対峙する登場人物たちと来れば、製作者側が意識していなくても自動的にそう思うクラスタでございます。

受講後のお楽しみと言えば懇親会である。懇親会には前回・前々回と出ておらず久しぶりなので受講者同士の会話がやたら楽しく調子に乗ってビールを飲み過ぎた結果、二次会の途中から記憶が無い。もしかすると何かご迷惑をかけていたかも知れない。平にご容赦を。
くまみこ』ついて。確かに最終回のよしおのあの台詞はキャラからも物語世界からも逸脱しているのでなんかおかしいなとは思ったが、俺にとっての『くまみこ』は、一大決心して何かをやろうとしても結局失敗してナツのもとに逃げ帰ることになるまちの死んだ目を愛でる作品であるので、最後に味噌は付いたものの無問題、という感じ。アニメしか見ずに叩いてる人がいたとしたら、原作漫画(既刊6巻)を読んでくれるとうれしいなと思う。
あと言い忘れたが、『あまんちゅ!』、『あまんちゅ!』をよろしくお願いします! 伊東が舞台のご当地アニメですよ! アニメも原作(既刊10巻)もいいですよ! 静岡県のみなさん、よろしくお願いします。

次回の「アニメ映画を読む」は9月25日(日)、テーマは「映画『機動戦士Ζガンダム A New Translation』三部作」。Ζガンダムは本放送は途中で見なくなり、21世紀になってからようやく全部見たがやっぱりいまいち相性が悪いので、どんなことが聴けるんだろうという興味が怖いもの見たさで却って高まってくるのだった。初めて参加した『逆襲のシャア』の時のように。楽しみ。

(そう言えば「あすなろ物語」もご当地アニメじゃんね。)

*1:レジュメのタイトルは「アニメを読む」だったがチラシの方に従った。

新井素子さんが選考委員を務めた集英社スーパーダッシュ小説新人賞第1回〜第11回の記録。

『書店ガール5』を読んでスーパーダッシュ小説新人賞のことを思い出したので選考委員を務めた新井素子さんの選評と受賞作をまとめた。個人的なメモである。出版社のWebサイトから該当ページは既に消えているためWebアーカイブへのリンクを貼った。

第1回(2000-2001)

http://web.archive.org/web/20041012062036/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_1.html

『学園モラトリアム』は、導入を読んだだけでお話の構造がすべてわかってしまうっていうのが、大難点だった。ネタバレ覚悟でお話を作るなら、せめて黒野博士と主人公の接触方法に、一工夫欲しかった。(でも、非常に好感がもてるお話の作りではあった。)
『オークションマニア1 黒服』は、古本屋業界の内幕等、地に足がついている処は面白い。だが、逆に、“お話”部分が、まったく地に足がついておらず、魅力がない。これ、どっちかにして欲しい。地に足がついていないお話を作るなら、お話に魅力を。地に足がついている処が魅力なら、地に足がついているお話を。
『マージナル・プラネット』は、大変達者な方だと思った。文章もこなれている、会話や遊び方も結構私は好き。けれど、設定が、致命的に変だ。HLAが水のある処へ移動しない理由がないし、こういう能力を持っている主人公が単独で旅行できる筈がない。SFで、世界を一つ作る以上、政治状況だけではなく、農業、貿易状況なんかも考えて欲しい。
『D.I.Speed!!』。お話の、文章、構成、キャラクターは、まあ、うまくできていると思う。けど、あげつらおうと思えば、できる処は多々ある。
 だが、それらをおいておいて、好きなものを描いている時の描写がとても生き生きしている。今回の佳作は、作品の完成度というよりも、“期待”の賞なのだ。“将来のあなた”に、期待している。
世界征服物語』。有体に言ってしまえば、これ、私にとって、一おしだった。けど、同時に、ちょっと……という作品でもあり……。
 センス、ストーリーテリングは、とてもいい。選考に残った人の中で、次回作を読みたいと思わせることに関しては、おそらくこの作者が一番だろう。
それでも私が「ちょっと……」と思ったのは、そして、今回、賞をとった以上、あえて苦言を呈するとすると……作者は、原稿、書き殴っていないか?
候補作中、誤字脱字の数は一番、ひとりよがり、読者を無視して勝手に作者だけが判っている文章も一番。
勿論、こういう欠点は、編集者や校閲者がついてくれれば直る。だが、その前に、推敲さえすれば、直る筈のものなのである。
作家というのは、他人が、お金を払ってまで読んでくれる文章を書く商売である。ならば、こういう文章を書いてはいけない。
つまり、あなたが問われているのは、“お金を払って読んでいただく文章を書く気構え”なのである。

第2回(2001-2002)

http://web.archive.org/web/20041012063233/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_2.html

 今回、私は、『銀盤カレイドスコープ』を大賞に推そうと思い、この選考会にのぞみました。(大賞を取ってくれて嬉しいです。)
 この作品は、“面白かった”。これに、尽きます。私は、仕事で、選考委員として、この原稿を読んでいる。にもかかわらず、『銀盤』は、読むのが楽しく、ページをめくりたくなった。ただ。たった一つ、問題をあげるならば。長い。全体的に、もうちょっと整理した方がより面白くなると思います。とはいえ、期待しておりますので、次回作でも楽しませてください。
 それから、佳作になった『地下鉄クイーン』。私は、構成にいささかの疑問を感じました。主要人物が、いつでも、作者にとって都合のいいタイミングで都合のいい位置にいる。ま、お話ってそういうものだって言えばそうなのですが、それも、あまりに度重なるとちょっと。また、主人公がカナリアを助けたいと思う動機が(特に最初のうちは)弱すぎる。まして、地下鉄クイーンが主人公に求めた代償はとんでもないものなのですから、もっと切実な動機がないと、構成的に辛いです。ですが、教会のシーンは綺麗で感動的でしたし、キャラクター造形も面白かった。
 『魔法使いのネット』。実はこのお話、文章は気持ちよく、キャラクターにも厭みはなく、すらすら読めて……うん、減点法では結構いい処へいく筈。にもかかわらず、何故、このお話が賞をとらなかったのかというと……気持ちのいいキャラクター、さくさく進むお話の展開、これ、ぜえんぶ、どこかで見たことがあるような気がするからです。つまり、すべてが非常に類型的なんです。(特にキャラクター。)
 新人賞というのは、“そつなくお話を作れる人”を求めているものではありません。どんな破綻やどんな弱点があっても、“新しい人”を求めているものです。そこの処を、この作者は、もう一回考えてみてください。

佳作

「地下鉄クイーン」(東佐紀)→『ネザーワールド カナリア

第3回(2002-2003)

http://web.archive.org/web/20040602231023/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_3.html

 今回は、大賞なしの佳作二つという結果になった。以下、選評である。
 まず、佳作の『殿がくる!』。これは、細かい欠点は多々あるものの、面白かった。読後感もよかったし、次にどうなるか、読んでいてわくわくさせられた。ただ……このお話の最大の魅力が、最大の欠点になっている。これ(織田信長が近未来にタイムスリップしてくる)は、信長におんぶにだっこのお話なのだ。このお話の魅力は、主に“織田信長”の魅力だし、変な処はすべて、「信長ならしょうがない」と思わせている。二作目以降において、信長以上に説得力があるキャラクターを、作者は造型できるのか?
 同じく佳作の『電波日和』。これは、文章もいいし、キャラクター造型もいい、読み終えた時、私は納得できた。だが……細かく見てゆくと、とっても変なのである。一番問題なのが、主人公と母親の関係。前半と最終局面で、あきらかに“母像”がぶれている。おかしい。それに。主人公は、学校内で友達がまったくいない、不良として描かれているんだけれど……どう読んでも、この主人公、いい奴だよ。主人公は、自分で自分のことを、「不良として徹底できない中途半端な奴」って規定しているけれど、この主人公は、まったく、中途半端じゃない。中途半端じゃなく、“いい奴”なんである。
 『山田飛鴻風雲録』。これは、作者と登場人物、そのすべてがじゃれあっているお話である。にもかかわらず、読後感が悪かった。「おまえの人生なんだから、やりたいことはやり放題やれ」っていう命題自体はいいと思うんだけれど、このつくり方だと、その後に、「どれだけ人に迷惑をかけたとしても、お金で片づけちゃえ」っていうのが、透けて見えてしまうから。しかも、こんな世界にもかかわらず、飛鴻がお祖父さんを嫌う理由を、この作者は書いてしまっている。それされると、一気にこのお話の虚構は崩れる。
 『学内果実を喰う奴ら』。処々……もの凄く、センスが、いい。だが。決定的なことに、これは、“お話”になっていないと思う。キャラクターの書き分けが全然できていないのに、章ごとに視点人物が変わり、しかもその人物の数が結構多くて、その区別がまったくつかない。かなり特殊な世界を設定しているにもかかわらず、世界設定を説明してくれないから、もう、何が何だか訳判らない。作者は、センスの前に、まず、“小説”を作って欲しい。

第4回(2003-2004)

http://web.archive.org/web/20070302093726/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_4.html

 今回は、かなりレベルが高かった。
大賞をとった、『戦う司書と恋する爆弾』は、世界設定がちゃんとできていて、しかもなかなか感動的。それに、“本”“爆弾男”“百年に一度の嵐に百年に一度の夕陽”っていう、ガジェットもとっても素敵。問題点としては、何故、シロンの本を、その辺のもぐりの本屋が持っていたのか判らない……なんてあるけれど、それは瑕疵に思える。(ただ。タイトルは、一考の余地あり。全体的に、ネーミングセンスがちょっと……。)
 同じく、大賞の、『その仮面をはずして』。これは、褒めている人が多いので、あえて苦言を。変な処が多すぎると思うの私。無式を厳密に考えると、真綾の能力の発動の仕方は、あまりに御都合主義的ではないか? 条件が同じで、超能力が発動したりしなかったりするし、その後の展開も、とても恣意的だ。また、ラスト、あんだけ破壊的なことをしておいて、この結末はないだろう。
 佳作になった、『Shadow&Light』。決め台詞がきっちりツボにはまって決まっているのに、登場人物の感情の流れにも素直についてゆけるのに、何故か、印象が薄い。これ、パワーバランスが悪いんじゃないかな。光輝が、強すぎるの。この作り方では、全然、ハラハラドキドキできない。
 『戦え!松竹梅高等学校漫画研究会』。手慣れているのは判るんだけれど、うまいんだけれど、それが全部、悪い方へ働いてしまった。それにあの……最低限のSF考証は、して欲しいものだ。
 『御用組』。もうちょっと、考えてくれえ。お話の作り方、主人公の捜査の仕方が、ゆきあたりばったりだっていう指摘があったんだけれど……その前に、悪役のやっていることが、そもそも、ゆきあたりばったりだ。こんなにゆきあたりばったりでは、ちゃんとした悪事なんかできない。
と、まあ、以上、今回の選評である。

大賞2

「その仮面をはずして」(岡崎裕信)→『滅びのヤマヤウェル その仮面をはずして』

第5回(2004-2005)

http://web.archive.org/web/20061006005953/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_5.html

『黄色い花の紅』は、「これが書きたい!」という作者の気持ちが、ストレートに伝わってきて、迫力と情熱で大賞をもぎとった。また、後半のヒロインの造形が、とてもよい。お人形でしかなかった彼女が、人間になってゆくあたり、ほんとに素敵。ただ、文章には非常に難がある。今後の精進に期待したい。
 一方、佳作の『Beurre・Noisette』は、文章とセンスがいい。とても楽しく読めた。ただ、主人公に、まったく説得力がない。裏切られた、苦しんだって、書いてあるだけなので(その上そういう人間には全然見えない描写なので)、お話全体が宙に浮いている感じになってしまっている。
『采目天仙大作戦!』は、手慣れている作りだし、実際うまいのだが、突出した処がないのが問題。構成にも、いくつか疑問がある。
『キセキ☆ラプソディ』は、私には評価のしようがなかった。これはプロローグでしかない。新人賞に応募する以上、ちゃんと完結しているお話でなくては困る。

佳作

『Beurre・Noisette』(藍上陸)→『Beurre・Noisette 世界一孤独なボクとキミ』

第6回(2005-2006)

http://web.archive.org/web/20071011034032/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_6.html

 大賞をとった『鉄球姫エミリー』は、登場人物全員の感情の流れが自然に納得でき、構成もめりはりが効いていて破綻がなく、見せ場もあり、なかなか感動的なお話だった。実際、今回の候補作の中では、実力的に頭一つ抜けていたと思う。これからもがんばってください。ただ、個人的な感想としては、頻発する下ネタ、魅力や個性というより、ただ邪魔なだけって気がするんだけど……。
 佳作の『警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび』。これ、私の点数は、低かったんだよね。それはひとえに、私にとって、チルビィが魅力的でなかったもんだから。可愛さの演出が、なんだかあざとい気がして。だが、読者が、チルビィを可愛いと思ってくれれば、それはそれでOKなのかな。ただ、今後は、“このチルビィをまったく可愛いと思えなかった人もいる”っていうのを念頭において、演出を考えて欲しい。
 同じく佳作の『ガン×スクール=パラダイス!』。とにかく主人公が前向きで努力するところがいい。私はこの作者をかなりかっている。だが、このお話には、やたら問題点があり(大体、お話自体のテーマとお話最大のイベントが矛盾している)、賞に推す気にはなれなかった。でも、まったく新たな設定の、この作者の次作を、読みたいと思う。
 賞からもれた『尽夜野怪奇スクラップ』は、実は、一番読みやすかった作品。文章の書き方、お話の作り方なんかはこなれていて、実際にプロになった場合、あるいはこの人が一番安定しているんじゃないかと思えるんだけど、その分、突出した魅力がない。キャラやエピソードが、“どこかで見たことがあるような……”って気分になってしまうのが、最大の難点。

佳作1

『警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび』(横山忠)

佳作2

「ガン×スクール=パラダイス!」(やまだゆうすけ→穂邑正裕)

第7回(2006-2007)

http://web.archive.org/web/20081228122311/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_7.html

 今回は大賞なし、佳作三編となった。順不同で、おのおのの作品について書く。
『反逆者 〜ウンメイノカエカタ〜』。
 私はこのお話、結構好き。丹念に、主人公の思いを追っていってくれるので、感情移入もできたし。ただ……初期設定、がんばりすぎ。
 人の死が見えてしまう能力って、そんなもんそもそも救済が不可能に近いと思う。それだけのハードルを設定して、それでも主人公の心が折れないよう、書き込むっていうのは……。
 あと、肩に力が入りすぎている。愛海がでてくる処は、なんかすらっと読めるのに、格闘シーンは、読むの辛い。これ多分、作者が肩肘をはっているせいだと思う。
 もうちょっと、力を抜いて、リラックスして。
   ☆
『超人間・岩村
 この人は、手慣れてる。演劇シーンあたりは本当に楽しめた。
 ただ、大問題なのは……主人公の岩村より、まわりの登場人物の方が魅力的なこと。(この書き方だと、一番かっこいいのが多村で、一番超人間なのはマルだ。)それに、あからさまに続編があること前提なのは、新人賞応募作として、どうなんだろう。作品である以上、完結していてほしい。
   ☆
『スイーツ!』
 私は女なので、冒頭から展開される思春期男子妄想は、正直言って、読むの結構辛かった。女の子には引かれるでしょう。ただこの人、書きっぷりがいいのよ。すっごく楽しんで書いている気分が伝わってくる。
 構成には無茶苦茶難があるんだけど、ま、いっかー。そのくらい、楽しい書きっぷりだった。
   ☆
 三人とも、がんばってください。

佳作3

『反逆者(トリズナー) 〜ウンメイノカエカタ〜』(弥生翔太)

第8回(2007-2008)

http://web.archive.org/web/20091209060555/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_8.html

 佳作が二作ということになった。
 まず、『逆理の魔女』。なかなかよく出来たお話だと思う。メインは三章と四章なんだけれど、一、二章が、いやみのない登場人物紹介になっている。しかも、主人公が、”ちゃんとした男の子”であり、”異常“に女の子に好かれていない!(応募作の大多数では、問答無用で男の子が女の子に好かれるのよ。これはもう、何とかして欲しい。)
 私は最高評価をつけた。だが……残念ながら、断固として大賞に推したいという程の、突出した魅力がなかった。
 『アンシーズ』。楽しく読んだのよ、私。クライマックス、盛り上がったし、ここまでは「大賞候補か?」って気分だった。だが。このお話の中で、アンシー達が戦う理由って、非常に大きな要素を占めている筈で、実際、何回かその話題がでかけ、その度に、何か事件が起きて……。ここまでひっぱるのだ、どんな理由があるのか、非常に期待していたのだけれど、作者は、それ、スルーしてしまったのだ。これはないだろう。期待が大きかった分、落胆も大きかった。
 以下、賞に入らなかった作品について。
 『物ッ凄い現実逃避』。うまい。するするっと読めて、楽しめるんだけど、いかんせん、私の頭の中に浮かんだ情景は、すべて、既製のゲームのもの。この人は、自分自身の世界を作れるのか?
 『たぬ化けっ!』。私は、この人の姿勢がかなり好き。だって、がんばっているんだよ、とても大きなテーマに真っ正面から取り組んでいて、この姿勢は非常に評価したい。
 だが、とにかくお話の整理が下手。その上、お話自体が矛盾続出。
 『ナイト=ゴーント』。もの凄く癖と毒がある文章で、好悪の情が別れるだろうなあ。ただ、お話の構成が、完全にゆきあたりばったりなのが、ひっかかった。その結果起きた矛盾は、看過するには大きすぎると思う。

佳作2

『逆理の魔女』(雪叙静→雪野静)

第9回(2008-2009)

http://web.archive.org/web/20101123041507/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_9.html

 今回、大賞が二作、佳作が二作となった。以下に、選評を書く。
 まず、大賞の『うさパン!』。これはまあ、ある意味過不足がないお話であって、道中、私も、大賞候補かなって気分で読んでいた。ニーナの感情の動きは丁寧に描けているし、ラビッツに拾われてなじんでゆく処も納得、ラストは感動的でもある。ただ。最後の敵が、あんまりなのである。馬鹿すぎ、駄目すぎっ。緊張感が一気に崩れてしまった。
 ついで、『オワ・ランデ』。私以外の選考委員は、総じて高得点をつけた。みなさんの評価が高いのであんまり文句は言いたくはないのだが……この主人公、「オズのエッチ」と言われるような人ではないと思う。そう扱われているが、この主人公の言動は、女性からすると、ほぼ痴漢だよ。でも、ダッシュ文庫って、読者対象は、あくまで男の子だから。読者対象が男限定ならば、ありか、これ。
 佳作二編のうち一つ、『ライトノベルの神さま』。手慣れている。大変読みやすい。うまいけど……ここまで、“お約束”をひっぱって、それだけでお話を構築してしまうのは、どうなんだろう。
 そして、佳作の二つ目。『二年四組 暴走中!』。この人は、とてもちゃんとお話を作っている。三十五人登場人物がいるという、ほぼあり得ないお話を、“ハッカー”“機械女”みたいな、属性だけで書いて、ちゃんと書き分けができている。しかもその上、このお話の中では、誰が“何”なのか、特定ができる。この構成力を、私はとても評価したい。けれど、話を大きく作りすぎたのでは。もうちょっと身の丈にあったお話の方が楽しめたと思う。(それと。あなた、誤字が今回最多だ。しかも、名前を間違っている処もある。あなたの作品の場合、名前の間違いは絶対あってはいけないので、次からはもっと注意して書くように。)
 『妖し合い』。ある意味端正なミステリなんだよね、伏線もちゃんとしてあるし、その伏線に呼応する処もちゃんとある。でも、ミステリなら、もっと大きな謎が欲しかった。
 『兄貴が町にやってくる』。……これ……要するに、変な格好をした兄貴が、ポーズをとる。と、それだけのイメージで、書き出したお話なのではないのか? 最初にイメージやシーンがあるのはいいとして、それだけではお話として成立しない。

大賞2

「オワ・ランデ 〜夢魔の貴族は焦らし好き〜」(神秋昌史)→『オワ・ランデ! ヤレない貴族のオトシ方』

佳作2

「二年四組 暴走中!」(片山禾域→朝田雅康)→『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』

第10回(2009-2010)

http://web.archive.org/web/20110604013529/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_10.html

 今回は、大賞が二作、優秀賞、特別賞がでました。受賞者のみなさま、これはスタート地点ですので、只今ここから、がんばってください。
 まず、大賞の『覇道鋼鉄テッカイオー』。お話はよくできていると思います。キャラクターもなかなか。悪役に深みがあるのもOK。特に、主人公カップルが、お互いに思い合っているのだけれど事情があり、「その資格を手にいれるまで告白しない」っていう設定は、とても真摯でいい。ただ、難点は文章。読みにくいことこの上ない。これはもう、思いっきり推敲してください。
 同じく大賞の『くずばこに箒星』。読後感がいいです。仲間を大切に思うっていう、とってもベタな内容をベタに書いていてくれて、でもそれに好感が持てます。文章もいい。ただ……主人公の母親が、疑問。いくら事情があるにせよ、主人公をスポイルしてるの、どう考えてもこの母親だよ?
 優秀賞『サカサマホウショウジョ』。ヒロインの前向きさはいい。ヒーロー役の男の子は……評価がわかれるでしょう。ただ、二転三転するお話、意外と破綻なくまとまってます。それと、文章が不思議。神視点で時々読者にみえをきっちゃう文章って……味があると思うか、癖があって嫌だと思うか、これも評価がわかれるでしょう。
 特別賞『嘘つき天使は死にました!(嘘)』。私は、前半、まったく乗れなかった。女湯覗きや、先輩捕獲イベント、楽しめない上に書いている意味がまったく不明で。ただ、後半からラストにかけては、なかなか盛り上がってます。どうして最初っからこういう風に書いてくれなかったんだろう。
 それから、今回、賞をのがした二作品。
 『魔王な使い魔と魔法少女な正義部員』。読みやすかったです。ただ、ハルの登場シーンなんかは、非常に状況が掴みにくい。読んで意味が判る読みやすい文章をお願いします。あと、主人公、あまりにナイーブではないか? ここまでナイーブだと、読んでいて辛いです。
 『悪いことしましょ』。お話を書くスキルは、とてもある人だと思います。文章、テンポ、会話、いいです。章によって視点が変わるんだけれど、それで文章がぶれない、これはなかなか凄い技術。ただ……あまりにも、中味がありません。本を一冊読んでもらうんだもの、会話がよくて楽しめる、でもそれだけっていうのは……ちょっと、どうかと。

特別賞

「嘘つき天使は死にました!(嘘)」(葉巡明治)→『嘘つき天使は死にました!』

第11回(2010-2011)

http://web.archive.org/web/20120904051733/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_11.html

 今回大賞をとった『暗号少女が解読できない』、出だしのエピソードは、つかみとしてはとてもいいと思うし、何より、ヒロインがラストでは本当に可愛く思えた。応募作品のヒロインって、結構、「美人でスタイルがいい以外の魅力は何?」ってものが多いのだが、この子は、性格がめんどくさくても、キュンとくる可愛らしさがある。主人公の気持ちが段々ヒロインによってゆく描写も、納得。ただ、せっかく暗号の話なんだもの、中途二つの暗号、もうちょっと凝って欲しかった気もする。
 優秀賞の『Draglight/5つ星と7つ星』は、なんかこう、とにかく読ませてくれた。読み方によっては、もろに主人公の願望充足のみに特化しているお話なのに、不思議な程読後感がいやじゃない。文章はいい感じで、センスもいいと思う。ラストは、もうちょっと盛り上がって欲しい。(あと、登場人物の名前、わざとやってるにしても、あまりにも酷くないか?)
 特別賞の『終わる世界の物語』。主人公四人の友情物語として読むと、実はこれ、結構よくできた作品だと思う。決める処は決まっているし。ただ、決定的に、世界設定が変。戦争にリアリティなさすぎっていうか、この設定なら、主人公グループ、しょっぱなから死んでるだろうし、日本は滅びている筈。
 同じく特別賞の『君の勇者に俺はなる!』。とても読みやすい。作者も楽しんで書いている感じだし、読者も楽しく読める。けど、その分、「次はこうなるんだろうな」っていうのが透けてしまう。ヒロインの人間不信や、友達の病気も、世界に奥行きをだすんじゃなくて、単なるお約束になっている感じ。ただ、のびしろは感じられるので、この賞は、「あなたの将来に期待」という意味だと思って欲しい。
 『ハレルユニコーン』は、寄性虫って設定は面白かったんだけれど、結局、そいつらが何やりたいのか、力って何なんだか、まったく判らないのと、キャクラターに魅力が感じられなかった。

大賞

「暗号少女が解読できない」(新保静波)

優秀賞

「Draglight/5つ星と7つ星」(篠宜曜→下村智恵理)→『エンド・アステリズム なぜその機械と少年は彼女が不動で宇宙の中心であると考えたか』

特別賞1

「終わる世界の物語」(宇野涼平→涼野遊平)→『伊月の戦争 終わる世界の物語』

特別賞2

「君の勇者に俺はなる!」(永原十茂)→『God Bravers 君の勇者に俺はなる!』

『いつか猫になる日まで』を読み返したのでメモを取った。

8月になりましたね。8月と言えば『いつか猫になる日まで』ですね。
という訳で久しぶりに僕が初めて読んだ新井素子本である集英社文庫コバルトシリーズの『いつか猫になる日まで』を読み返しました。外側は焼けてるし黄ばんでるしカビてるけれども未だにお気に入りの一冊であります。8月7日から13日までの7日間の物語は、読み返すとやっぱり甘酸っぱいしほろ苦いし自分とは何かを考えちゃうし、恋愛あり友情あり冒険ありの青春SFの傑作であるなあと思います。
で、まあせっかくなので、本文中に出て来る単語(主に名詞)をメモしてみました。

メモ

第一章 夢

P.11 森本あさみ(親友・身長170cm・8月7日生まれ)
P.12 殿瀬和馬(小・中の同級生・8月13日生まれ)
P.12 海野桃子(愛称:もくず・8月8日生まれ)*1
P.14 ラーメン
P.16 コーヒー、トースト、バター、アプリコットジャム
P.18 精神感応、ESP能力、八月七日
P.20 木村利明(ライオンさん=P.36・8月12日生まれ)
P.20 アラン・ドロン
P.22 いちこ(笹原いちこ=P.24・木村の亡き恋人)
P.23 かみしゃく(上石神井)、高田馬場、(西武)新宿線、(西武)池袋線石神井公園
P.24 小茂根
P.24 佳佑
P.24 石神井公園駅上石神井駅、池袋
P.26 UFO
P.22 自衛隊、消防署
P.30 精神感応能力
P.31 テレパシー

第二章 みどりいろの宇宙船

P.33 八月八日
P.37 木々美姫(愛称:姫・8月8日生まれ)
P.39 石神井池
P.45 予知能力
P.45 水原誠(8月10日生まれ)
P.48 テレパス
P.49 エイリアン(異邦人の意*2)、ギリシア、キトン、若草色、紫陽花
P.50 言語翻訳器、サイコ・バリア、催眠術
P.51 ピストル、煙草、マッチ、ライター
P.52 Gパン
P.53 ハイヒール
P.55 浅田飴
P.55 ヨキ(宇宙人・女性形)

第三章 戦争

P.58 シュヴィア(宇宙人・男性形)
P.58 ラジュー(宇宙人・女性形)
P.60 銀河系
P.61 レンチ
P.62 ヴィス(故郷の星の名前→種族名)
P.62 地球人
P.70 ウルトラマン、スーパーマン
P.71 アメリカ空軍

第四章 たんぽぽ咲いて

P.74 喫茶店
P.77 アポロ、サターン何号
P.85 惑星オーサ、シナ
P.88 たんぽぽ
P.89 ブラッドベリレイ・ブラッドベリ)、”たんぽぽのお酒”*3
P.89 ブラックベリー、ブルーベリー
P.91 月月火水木金金(歌のタイトル)
P.91 バスケ、ラグビー
P.94 森君(高二の時のクラスメート)
P.95 八月九日
P.98 ゴルフ場

第五章 かすみ草に石が降り

P.100 ハンバーガ
P.101 アイスキャンディ
P.103 おじぎ草
P.104 ねむの木、ミモザ博物学
P.105 マイルドセブン
P.106 チューリップ、たんぽぽ、しろつめ草、かすみ草、大八車
P.109 マフラー、セーター
P.110 鎖編み

第六章 ヴィス――そして、すべての夢が崩れるとき

P.119 八月十日
P.122 アンパン、ジャムパン

第七章 月がとっても青いから

P.141 月がとっても青いから(歌のタイトル)
P.150 欠けたることのなしと思えば。(此の世をば我が世とぞ思ふ望月の虧かけたる事も無しと思へば 藤原道長

第八章 戦闘開始

P.155 メクロ(第三司令船所属第七隊救援船船長)
P.162 ドッジボール
P.171 まだ一桁よね

※既に12人に達していました。(各ミッションで/の前の2人が月面着陸しています)
アポロ11号・1969年:ニール・アームストロング、バズ・オルドリン/マイケル・コリンズ
アポロ12号・1969年:ピート・コンラッド、アラン・ビーン/リチャード・ゴードン
アポロ14号・1971年:アラン・シェパード、エドガー・ミッチェル/スチュワート・ルーサ
アポロ15号・1971年:デイヴィッド・スコット、ジェームズ・アーウィン/アルフレッド・ウォーデン
アポロ16号・1972年:ジョン・ヤング、チャールズ・デューク/ケン・マッティングリー
アポロ17号・1972年:ユージン・サーナン、ハリソン・シュミット/ロナルド・エヴァンス

P.178 ピンク

第九章 決戦、そして詰め

P.182 ゴティンダ(第十七空域から三十七空域担当第二司令船キャプテン)
P.182 タミュテ(副キャプテン)
P.185 ハイライト
P.196 アメリカン・クラッカー
P.199 獅子座
P.202 軍神マルス

第十章 見果てぬ夢の果てたあと

P.213 八月十三日
P,218 原宿
P.221 おとつい(愛蔵版で昨日に訂正)
P.222 ”木村さんが十一日”(愛蔵版で十二日に訂正)*4
P.222 上石神井一丁目(新装版で二丁目に訂正)、石神井台二丁目*5
P.223 石神井台四丁目、関町二丁目(新装版で関町南一丁目に訂正)*6
P.228 剣道
P.231 ミスタースリム、メンソール
P.232 専売公社(愛蔵版:日本たばこ・新装版:JT、にそれぞれ訂正)※→補記(2)
P.233 セメダイン

第十一章 いつか猫になる日まで

P.239 プチブル
P.244 はこべ、クレパス
P.250 ワープ

補記(1) 二人称の変遷

お宅がつくったの」「ええ、勝手知ったるお勝手ですもの」(1980年・コバルト文庫版/P.14)

おたくがつくったの」「ええ、勝手知ったるお勝手ですもの」(1996年・愛蔵版/P.15)

あさみがつくったの」「ええ、勝手知ったるお勝手ですもの」(2005年・コバルト文庫新装版/P.15)

補記(2) 名称の変遷

専売公社だってこう言いながら売ってるじゃない」(1980年・コバルト文庫版/P.232)

日本たばこだってこう言いながら売ってるじゃない」(1996年・愛蔵版/P.232)

JTだってこう言いながら売ってるじゃない」(2005年・コバルト文庫新装版/P.235)
日本専売公社が解散し日本たばこ産業株式会社(略称「日本たばこ」)が設立されたのが1985年。「JT」は1988年にコミュニケーション・ネームとして導入された。

補記(3) 宇宙人名・惑星名の由来

推測ですが山手線の駅名です。

  • ヨキ=代々木
  • シュヴィア=渋谷
  • ラジュー=原宿
  • ヴィス=恵比寿
  • 惑星オーサ=大崎
  • シナ=品川
  • メクロ=目黒
  • ゴティンダ=五反田
  • タミュテ=田町

→【参考】新井素子研究会|新井素子作品・駅名の旅

書籍

いつか猫になる日まで

いつか猫になる日まで

いつか猫になる日まで (コバルト文庫)

いつか猫になる日まで (コバルト文庫)

*1:新井素子さんの誕生日はもくずや姫と同じ8月8日。

*2:映画『エイリアン』の公開は1979年。

*3:たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)

*4:P.221で木村が「正確にはおとついで二十歳なんだ。俺、八月十二日生まれなの」と言い、P.222であさみが「あたしが七日、もくずと美姫さんが八日、水原君が十日で木村さんが十一日、殿瀬君が十三日?」と言っている。実は十二日というのが間違いで木村利明の誕生日は十一日だったのではないかという疑問が生じた。しかし後の再刊本では十二日に統一された。

*5:石神井一丁目とあるが井草高校は二丁目だし石神井台二丁目と隣町になるのも二丁目だし、と思ったら新装版では二丁目に訂正されていた(愛蔵版ではそのまま)。

*6:住居表示が実施されて練馬区関町南一〜四丁目が成立したのは1984年のことらしい。

2015年6月の読書記録

読んだ本の数:16冊

辞書を編む (光文社新書)

『辞書を編む』というタイトルで『舟を編む』を思い出した人にはぜひ読んでもらいたい本。『三省堂国語辞典』の編集委員である飯間氏が第七版の刊行に取り組む時系列に則した形で編纂者の考えと国語辞典がどのように作られるのかを語る。本文中には『舟を編む』に纏わるエピソードも登場する。
この本の刊行が2013年4月で『三省堂国語辞典』第七版の刊行が2013年12月。本の中では編集作業の真っ最中のその辞書を傍らに置き本文中に登場する単語を引きながら読むと臨場感があってまた面白い。久しぶりに長時間辞書と向き合って単語への興味が連鎖して行くのが楽しかった。辞書の性格を知った上で利用するのも興味深い体験である。辞書は言葉の正確な意味を知るための道具だと思っていたから各辞書の性格なんて今まで考えたこともなかった。『三省堂国語辞典』を手許に置きたくなる。
「しょっぱい」の隠語的意味も載ってたのが個人的に好感を持った。次の版では「塩」の意味も追加されるだろうかと興味が続く。
読了日:6月29日 著者:飯間浩明

辞書を編む (光文社新書)

辞書を編む (光文社新書)

三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

大奥 (12) (ジェッツコミックス)

徳川治済の怪物ぶりはこの巻でも圧巻。台詞で表情が見えないと思ったら次のページのあの顔。恐い。そしてついに赤面疱瘡との戦いに終止符が。黒木や伊兵衛があの聡明な人たちを思い出したように俺も感慨に浸った。将軍家斉と御台所の関係も泣かせる。愛は戻らなかったけれどもお互いのことは解り合っていたのだと思う。シーボルト事件のこと、これ高橋景保に関しては新解釈なんだろうか。で、いよいよ黒船が来た。次巻も楽しみだ。
『大奥』に関しては読むたびにいろんなことが頭の中を駆け巡って果ては胸中に溜まったまま燻ったりするんだがそれらを詳らかに言葉にするだけの文才が俺にはあまりにも無い。
読了日:6月26日 著者:よしながふみ

大奥 12 (ジェッツコミックス)

大奥 12 (ジェッツコミックス)

たいようのいえ (13)<完> (KCデザート)

物事の終わりはまた新たな始まりであって生きていく限りそれが連綿と続いていくので禍福は糾える縄のようだと言うけれどもせめてこの幸せは長く続きますようにと祈らずにいられない。特に大樹にはいいことがありますように。
読了日:6月24日 著者:タアモ

たいようのいえ(13)<完> (KC デザート)

たいようのいえ(13)<完> (KC デザート)

剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎 (文春文庫)

傑作。超傑作。
やられた。久しぶりに没入した。すごいよかった。
思い返すとため息が出るし最後の処を読み返すたびに胸がきゅーっとなる。
やばい。まじ傑作。
これを読んでると今川氏が憎くなる。「滅亡」の文字が出た処でざまみろと思った。
読了日:6月23日 著者:高殿円

江口寿史の正直日記 (河出文庫)

この言葉を帯の惹句に軽々しく使っていいものなんだろうかと軽い戦慄を覚えた。それすらも自虐芸なのかも知れず内容を端的に表現するという意味ではこの本には最もふさわしいと言える。このダメさ加減には普遍性がある。読んでると胸に染みてきて笑いながら泣いてしまう感じ。漫画が読みたいです。
俺はディープな江口ファンじゃないけど樋口毅宏が解説で引用した『すすめ!!パイレーツ』のフレーズは全部頭の中に絵が浮かんできた。この解説はよかった。
読了日:6月18日 著者:江口寿史

海街diary (1)-(6) (flowersコミックス)

気にはなっていたものの読んでいなかった作品を映画化を期に読んだ。途中で読むのをやめることのできない面白さで一気に読んでしまった。続きも気になる。
すずの進学先として掛川にある架空の高校が登場する。果たして彼女の選択は。
(1) 蝉時雨のやむ頃
(2) 真昼の月
(3) 陽のあたる坂道
(4) 帰れない ふたり
(5) 群青
(6) 四月になれば彼女は
読了日:6月15日 著者:吉田秋生

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

isbn:4091670377detail
海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

海街diary(うみまちダイアリー)5 群青 (flowers コミックス)

海街diary(うみまちダイアリー)5 群青 (flowers コミックス)

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

本文中に「新井素子」という単語が出て来る小説。単行本版で既読だが文庫版が出たので再読。学級内権力闘争に巻き込まれる女子中学生たちの戸惑い悩み傷つきながらも成長していく姿を瑞々しく描き出した佳作で数々の波乱の後に辿り着いたラストシーンのまばゆさには神聖さすら覚える。わたしゃどうもここに描かれた派閥とか人間関係の機微とか心理の綾とかがよく判らんのでそういうもので一杯の海を懸命に漕ぎ渡ろうとしている彼女らの姿に却って感動を覚えるのだと思う。これ面白いっす。
読了日:6月11日 著者:柚木麻子

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

さらば国分寺書店のオババ

椎名誠の語る国分寺書店のオババの追想に書店従業員としての自分を重ね見る。日頃自分はどうすべきなのかと考えていたことと重なる部分もありそうだそうだと思う自分とそれはたしかにやり過ぎではと思う自分がいる。ただ根底には圧倒的な共感がある。老婆は死なず、ただ消え去るのみ。
読了日:6月7日 著者:椎名誠

さらば国分寺書店のオババ

さらば国分寺書店のオババ


新井素子」という単語が出て来る本を知りたいというツイートに『さらば国分寺書店のオババ』はどうかと見ず知らずの人からリプライを頂いたので三五館版を図書館で借りて読んだのだった。結論を言えば本文中には出て来ない。なんだこのアドバイス罪案件は、とかなりがっくり来た。
しかし、である。ググってみるとクリーク・アンド・リバー社が刊行した電子書籍版(「椎名誠旅する文学館シリーズ」)の巻末に椎名誠目黒考二の対談が収録されており、その中で新井素子さんへの言及があることが判った。この対談はwebで読める。

椎名 そのときの奇想天外の新人賞を受賞したのが新井素子さんだ。

旅する文学館|椎名誠の仕事(聞き手 目黒考二)|『さらば国分寺書店のオババ』その6]

椎名誠が応募した1977年の第1回奇想天外SF新人賞で佳作となった5編の内のひとつが当時高校2年生だった新井素子さんの「あたしの中の……」だった。名前が出るてことはその後の活躍も含め印象に残っていたのかなと。
とこのようなことをググるきっかけになったのでリプライを頂いたことには感謝している。ついでに言えば『さらば国分寺書店のオババ』の刊行は1979年で三五館版P.27には「一九七七年に入ってから、急にキチガイ的に、この車内アナウンスがやかましくなってしまったのである。」とあるから第1回奇想天外SF新人賞が行われた頃の東京郊外の様子やその他諸々が一人の男性の目から語られるという新井素子的な興味からも読める。電子書籍版はKindleやその他の電子書店でも販売しているのでチェックしてみるとよろしいかと。

図書館戦争 LOVE&WAR (15) (花とゆめコミックス)

ついに本編完結。描き切った、と思った。原作よりも更に恋愛成分多めで読んでいてデレデレになる場面が多かったがむしろそれがよかった。楽しく読んだ。連載が始まったのが7年前と書いてあったけどそんなに前か。なんかあっという間だったような気がする。
デパートの人らの対応がすごい泣ける。原作でも泣いた。『通りすがりのレイディ』であゆみちゃんが番組ジャックした後にレイディ捜索の協力者が続出して「あたし、日本人て、好きよ」とか何とか言ってたけど、まさにあんな感じと気分。
『別冊』はやっぱり1巻からてことになるのかな。楽しみ。
読了日:6月5日 著者:

図書館戦争 LOVE&WAR 15 (花とゆめCOMICS)

図書館戦争 LOVE&WAR 15 (花とゆめCOMICS)

リライブ (ハヤカワ文庫JA)

一冊の本にまつわる複雑怪奇な時間SF四部作、これにて終幕。前三作の謎解きを期待して挑んだもののこちらの想像を軽く超えて押し寄せる物語に未だ理解できていない部分も残る。しかし拘りの形式美に魅せられてラストシーンでは深い感動に包まれた。傑作。
ほぼ静岡県内が舞台となっている「静岡SF」なので静岡県民は読むと良いと思う。あと本が好きだったり『時をかける少女』が好きな人はぜひ。『リライト』『リビジョン』『リアクト』『リライブ』を一気に読むのがおすすめ。(そして読み返したくなるのさ)
読了日:6月4日 著者:法条遥

リライブ (ハヤカワ文庫JA)

リライブ (ハヤカワ文庫JA)