衝撃の文体。

なんだか話の流れでだらだらと書いている。
文体で衝撃を受けたというなら、それは夢枕獏だった。センテンスの短さとしつこいほど繰り返される改行が文章に軽快なリズムを生み、知らず知らずのうちに気分が高揚させられていく。『餓狼伝』第一巻の第四章「乱入」から引用してみよう。

静かな、岩のような男であった。
体の造りの何もかもが肉厚であった。
頭も、首も、肩も、胸も、腹も、足も、手の指までもが太い。
眉も、太い。
目も、太い。
鼻も、太い。
唇も、太い。
目から放たれている静かな眼光までが、太い。唇から漏れる声も太かった。

詩ならまだしも小説でこんな書き方をするというのは目から鱗だった。この文体で紡ぎ出される格闘シーンは現代小説の至極である。『餓狼伝』第一巻に於ける丹波文七と泉宗一郎の果たし合いが始まるまでのギリギリとした緊張感はたまらない。すげぇかっこいいのである。