福田政雄『殿がくる!』。

読了。最後に泣いた。そういう話ではないような気がする。どうも涙もろくていけない。
ダメダメな主人公がほんのちょっとした決意に到るまでを描いた「ジュブナイル小説」。「ジュブナイル小説」の明確な定義もよく知らないまま書いてしまったが、何かそう呼びたい感じ。昔よく読んだソノラマ文庫作品がふと脳裏に浮かぶような、そんな懐かしさがある。ラブコメあり、陰謀あり、(ちょっとした)冒険あり、社会諷刺あり、というお約束が満載の内容がそう思わせたのかも知れない。しかしそれらがうまく結びついて最後まで飽きさせない話となっていた。もちろん「殿」の圧倒的存在感と魅力が話の盛り上がりに大きく貢献していたのは言うまでもない。周囲が否応なく巻き込まれてしまうほどのパワーを持つ、暴走する登場人物ってのは俺は個人的に大好きなのである。あと、イラストがよかった。相楽ヒロカズのかわいい絵は内容に似合っていて好感を持った。
全体的にはもろに俺好みの小説である。が、すでにおじさんになってしまった俺なんかが読むより、10代の奴らに胸をワクワクさせながら読んでもらいたい。この小説はきみらのものであるように思う。それが「正しいジュブナイル」である。ような気がする。何書いてるかわかんねえ。とにかく面白かった。
この作品は新井素子さんが選考委員を務めた「第3回集英社スーパーダッシュ小説新人賞」の佳作受賞作である。今月出版されたばかりで、作者にとってはデビュー作となる。新井素子さんの選評はこんな感じだった。

 まず、佳作の『殿がくる!』。これは、細かい欠点は多々あるものの、面白かった。読後感もよかったし、次にどうなるか、読んでいてわくわくさせられた。ただ……このお話の最大の魅力が、最大の欠点になっている。これ(織田信長が近未来にタイムスリップしてくる)は、信長におんぶにだっこのお話なのだ。このお話の魅力は、主に“織田信長”の魅力だし、変な処はすべて、「信長ならしょうがない」と思わせている。二作目以降において、信長以上に説得力があるキャラクターを、作者は造型できるのか?

第3回集英社スーパーダッシュ小説新人賞

新井素子さんの名前は作者のあとがきにも登場してくる。

 とくに作中、科学的な考証の初歩的なミスについて、わざわざお知り合いの学者の方の意見を仰いでまで、この未熟者にご指摘をくださいました新井素子先生には、この場を借りてあつくお礼を申し述べさせていただきます。
 ありがとうございました。
 あのお手紙は、この後も長く筆者の宝物となるに違いありません。なんにしても昔から憧れの対象だった作家の方に、あそこまで深く拙作に関心を持っていただいたことは光栄以外の何ものでもありませんでした。

そうか。選考委員の仕事って、読んで選考して選評書いて終わり、じゃないんだな。