松森亮『サッカーのある場所』。
読了。著者の松森亮氏はジュビロ磐田の元選手で、現在はスタッフとして働いている。市船を卒業後入団したジュビロを短年で解雇され、精神的ショックも癒えないまま学んだコンピュータの技術を生かし、web作成や広報など裏方の仕事をするスタッフとして再びジュビロ磐田に戻った、という経歴を持っている。また、その経歴が現在の彼の売りともなっている。
この本、ネット上ではあまりいい評判を見ないのである。俺も読んでみてうーむと首をかしげることは何度もあったのだが、叩くほどひどい本だとも思えないので、俺が思った長所と短所をそれぞれ書いてみようと思う。
- 「内容について――Jリーガーのセカンドキャリアとして」
- 【長所】サッカー選手としての挫折と、そこから自分の道を切り開いていく件など、Jリーガーのセカンドキャリアを考える上で貴重な証言が本人の口から語られている。ジュビロ磐田から仕事をもらうに至る経緯が前著より詳細に書いてあったのは興味深かった。
- 【短所】前著『サッカーのある生活』と内容的に重複している部分が多く、既に読んでいた者にとっては同じことをまた読まされるのはいささか辛かった。前著を出版して以降の自分の変化などを客観的な文章にしてみるとよかったのではないか。
- 「内容について――インタビュー」
- 【長所】選手の普段聞けないようなプライベートトークが読めて面白かった。ジュビロ磐田に在籍した選手について名波と鈴木秀人が歯に衣着せずに語ったインタビューは好企画。
- 【短所】前著の二番煎じの感はぬぐえない。また、選手の話は相変わらず面白いんだけど、それに突っ込みを入れる立場の著者が話のレベルについて行けてないのも興ざめ。イメージとしては、2003年シーズンでいきなりジュビロの中盤で起用された成岡翔である。厳しいのは判るんだがもう少しこう何とか……と言いたくなる感じ。対談中に藤田から出されたキラーパスは著者にとって物凄く有益だと思うので、その動きに合わせられるように精進してほしいと思う。それと、フランクな会話とはいえ、公に出版される本にこんな話を載せて選手のイメージダウンにならないのか? と突っ込みたくなる箇所もいくつかあった。ヤマハFCとしてはこれくらいならOKという判断なのだろうか。疑問である。
- 「内容について――プレイヤーズ・コラム」
- 【長所】「ぴあ」サイト上で連載されたコラムがまとめて読める。選手一人一人に焦点を当てて、現場の人間でなければ知り得ない側面に触れることができたのはよかった。
- 【短所】文章に深みがなく、著者独自の視点が感じられないのでいまいち面白味に欠ける。総じてこの著者の文章は「本当に何か伝えたいことがあるのかこの人は」と疑念を抱くほどに密度が薄い。著述を仕事にするなら、まだまだ文章の勉強をする余地はある。あと、スタッフが自チームの選手の名前を間違えてはいけないと思う。「菊池」じゃなくて「菊地」だ。
短所ばかりが長くなっているが、松森氏に含むものはないのである。自分のできることを精一杯やってる処は積極的に好感を持っている。個人的には高卒ルーキーを見守るような気持ちでいるし。ただ、ジュビロの選手に助けられて本を出すんじゃなくて、自分の言葉でもっとジュビロのいい所を伝えられるといいんじゃないかと思うんである。誰も知らないジュビロ磐田の側面を引き出すような面白い本を出してくれることを望む。
- 『サッカーのある場所』,松森亮,ぴあ,ISBN:4835609549