新井素子さんとアニメ。

『月刊OUT』1984年2月号竹宮恵子との対談を読み返した。『ロマントリップ・星へ行く船』発売記念ということだが、『地球へ…』や『夏への扉』がアニメ化されていたとは言え漫画家の竹宮恵子と、アニメに関係ない新井素子さんの対談がアニメ誌に登場しているという状況が興味深い。アニメの周辺領域を好んで取り上げていた『アウト』という雑誌の性格にも因るのかも知れないが、アニメファンである読者が両者に関心を示していたことを示す事例とも言えるだろうか。司会の米沢嘉博がアニメの話題を盛んに振っており、新井素子さんとアニメの関わりがよく見える貴重な資料である。

米沢 今、放映されてるテレビアニメは、ご覧になってますか?

竹宮 いゃ〜、見れないですね。『キャッツ♥アイ』が始まった時に見たいなと思ったんですけれど、結局見れなくて、噂ばっかりです。

米沢 新井さんの方は、かなりアニメは見るんじゃないですか?

新井 いえ、私テレビ全然見ませんから、見てないです。

米沢 じゃ劇場用アニメは?

新井 いえ、ほとんど見ないです。

竹宮 冷たい!

新井 あのう…仕事じゃなくて、自分でお金払って見に行ったのは『ルパン三世』2本と『銀河鉄道999』だけです。あとは、仕事で『クラッシャージョウ』と『幻魔大戦』と『宇宙戦艦ヤマト』見なきゃいけなかったんですけれど、あとは試写会とかその程度で。

米沢 じゃあ、あんまりアニメが好きとかそういうわけでは?

新井 というか、『機動戦士ガンダム』とかあのへんのはテレビ見てないと、あんまり感情移入できませんでしょう。劇場作品だけポコっと見てもわかんないんですよね。『機動戦士ガンダム』はあんまりブームになったんで1回見に行ったんですよね。で、私は映画だけ見てよくわからないのに、まわりが勝手に盛り上がってるからね(笑)。

アニメ誌なのにきっぱり「見てない」と言い切る発言が実に痛快だ。俺は当時から新井素子ファンだったから何も気にならなかったが、まともなアニメファンは「なぜこの人が『アウト』で対談しているのか」と疑問に思ったかも知れない。以下、註釈などを。
1) ルパン三世』2本というのは、「ルパンVS複製人間」と「カリオストロの城」のことだと思われる。(*1)自費で見に行くということは『ルパン三世』は好きなんだろうか。デビュー直後の毎日新聞インタビューとか『ブラック・キャット』にも名前が出てくる。まあ『ルパン三世』と『999』はアニメファンじゃなくても見るアニメだし、名前が出てきても不思議ではない。
2) 『クラッシャージョウ』、『幻魔大戦』、『宇宙戦艦ヤマト』を見た仕事というのは『アニメージュ』1983年5月号岬兄悟との対談のこと。『ヤマト』は完結編である。
3) 劇場版『機動戦士ガンダム』第一作が公開されたのは1981年3月で、新井素子さんが20歳の時。今でこそアニメという枠を越えて有名になった『ガンダム』だが、当時の状況で興味も予備知識もない人が第一作だけをいきなり見ても面白く感じることはないかもしれないとは思う。
それではアニメ映画を見ない新井素子さんはどんな映画を見るのかというと。

米沢 じゃあ、流れていく画面をジーッと見続けるというのは、あまり好きではない?

新井 そういうわけではないです。だから、特にアニメを見ないというんじゃなくて、見る映画自体が片寄ってて、私、恐怖映画とSF映画しか見ませんので(笑)。

竹宮 じゃあ『スター・ウォーズ』みたいなのは好きなの?

新井 ええ、好きです。特にあの第1作というか。”エピソードIV”というか…。

元々がSFの人というのがよく判る談話である。
以上、新井素子さんとアニメの関連性の薄さを示す資料として提示しておく。
ちなみに、この対談当時『あなたにここにいて欲しい』を執筆していた模様。催促の手紙が版元にたくさん届いたため、カリカリきた担当編集者に「なんでそれだけしか出来てないんだ!」と怒られた、と語っている。
他のチェックポイント。
1) id:akapon:20041121#p1、id:akapon:20041126#p1で取り上げた新井素子自筆『星へ行く船』イメージラフの件がこの対談中にも登場する。竹宮恵子にからかわれている。
2) 漫画を読み始めたのは「中学2年の頃」とここでも語っている。『S-Fマガジン』誌でポーの一族』がおもしろいという記事を読んで、『別冊少女コミック』を読み出したのが始まりその『別冊少女コミック』がすごくおもしろくて、夢中になりました。とのこと。関連:id:akapon:20041126#p2

*1:この号には「PARTIII」の放送が1984年4月から開始されるという第一報が掲載されている。劇場第三作「バビロンの黄金伝説」の公開は更にその翌年で1985年。押井ルパンが既に頓挫していたかどうかは覚えていない。