図書館で朝日新聞の縮刷版をチェックした際に紙面より名前を拾ってみた。記事と広告に新井素子さんの名前が出てくるものを列挙してみる。『いんなあとりっぷ』誌の広告にも名前は登場しているが、前に書いたのでここでは省略する。
朝日新聞1984/7/22(日)2面(広告欄)・縮刷版P.830
講談社広告より。
素子ファン待望の書き下ろし長編! 絶賛発売中
意識の底に流れる愛と憎しみを描くSF最新作!
今までの恐怖は、他人に対する恐怖でした。言いかえれば――子供の恐怖でした。祖父に怒られる、父に怒られる、母に怒られる、という――他人、それも家族に怒られる恐怖でした。今、初めて、あたし、怒られる以外の恐怖を、味わっています。それは――自分自身に対する、恐怖。あたしは、いったい、誰なんでしょう。
朝日新聞1984/08/04(土)2面 広告欄
「角川書店の単行本/最新刊」より、「バラエティブックシリーズ」の広告。二冊。
衝撃の愛の交換!
読者必笑・スーパー・バラエティ
『あはは、まんが』
当代人気マンガ家全出場●山岸凉子●吉田秋生●高野文子●柴門ふみ●さべあのま●安彦良和●寺島令子●泉昌之●渡辺和博●関川夏央●白山宣之●谷弘兒●新井素子●吾妻ひでお
定価940円
朝日新聞1984/08/26日曜版26面(「BOOKSぶっくす」面)
皆川正夫(フリー・ライター)のコラム「集英社コバルト文庫 朝日ソノラマ文庫 中高生の心つかむ」。
どんな本屋でも、人だかりがしているのは雑誌とマンガの売り場と相場が決まっている。その次が文庫の棚の前だろうか。その文庫の棚も、出版社によって集まる人の数や、風体が幾分違っている。例えばいつもひっそりとしているのは岩波文庫のあたりで、女性が二、三人集まっているのは、決まって赤川次郎コーナーだ。各文庫は、それぞれの客層を開拓しているわけだが、その中でも特殊なものに、朝日ソノラマ文庫と集英社コバルト文庫がある。
この二つの文庫の読者層は、おそらく九〇%以上が、中学生高校生だろう。しかも、朝日ソノラマ文庫は、男の子が中心、集英社コバルト文庫は女の子が中心と、さらに細分化されているのだ。
今の中学生、高校生にとって活字の占める地位は低いはずだ。まずテレビでありアニメでありコミックであり、あるいはマイコンであるだろう。活字の小説を読む少年や少女はかなり特殊かもしれない。実際、公共図書館などでも、閲覧室の高校生たちは持参の参考書を広げ、勉強をしているのであって、本を読んでいる姿はほとんど見ない。
が、それでも彼らのために書かれた本が出版され、愛読されているのも事実だ。
では、どんな作者のものが読まれているのか。きちんと調査をしたわけではないが、書店の品ぞろえの様子や、展示のしかたからでも、おおよそのことはわかる。
まず赤川次郎である。常にベスト・セラーリストに数点の作品を入れ続けるこの作者は、中学生、高校生にも歓迎されているようだ。そして新井素子。かわいいか、かわいくないかを評価の基準とする独特の哲学で構築された作品世界は、熱狂的なファンを獲得している。
これらの作家たちは、ソノラマ、コバルトの世界にだけ書いているわけではない。そういう意味で、これらの文庫を代表する作家とは言いにくいところがある。集英社コバルト文庫を代表する作家といえば、氷室冴子だろう。
氷室冴子の代表作は、『クララ白書』『アグネス白書』のシリーズである。これは、漫画化もされ、近く映画化されるヒット作品だ。私立の女学校の寮生活をコミカルに描いたもので、『制服の処女』『飛ぶ教室』の例もあり、伝統的古典的な舞台設定だといえる。中学編が『クララ白書』、高校編が『アグネス白書』で、各二冊、計四冊のシリーズになっている。同年代の少女たちが、容易に感情移入でき、共に笑い、悲しみ、カタルシスを得ることができるという意味で、ジュニア小説の必要条件を満たした好著であろう。
ほかに、田中雅美も注目したい。フランス文学風のやや屈折した恋愛小説を書いていた人だが、再近作『アフタースクール王国』で一皮むけた感じがある。
一方の朝日ソノラマ文庫では、菊地秀行をあげたい。『エイリアン秘宝街』にはじまるトレジャー・ハンター・シリーズは、007の少年版といってもいい。頭脳と体力と財力を駆使し、秘境の怪物と戦う、気持ちのいいくらい荒唐無稽なアクション小説である。万能の主人公、八頭大が高校生、という点が大人の読者の失笑をかうかもしれないが、シリーズが続くにつれて、菊地秀行の大ボラに、磨きがかかり爽快(そうかい)な読み物になっている。これらは少年の夢を満たし受験戦争に疲れた神経をもみほぐす、心地良い作品群である。もちろん、大人の鑑賞にも十分耐える。
というより、大人が読んでもおもしろくなければ、子供だっておもしろいとは思わないわけで作品の肩書にこだわらず肩のこらないおもしろい作品を探している読者には大いに両文庫を探索することをすすめたい。実際、最近、大人向けのノベルズで『魔獣狩』のシリーズを発表した夢枕獏は、朝日ソノラマ文庫で”キマイラ・吼 シリーズ”を書きすすめている。違いといえば大人向きでは性的な描写が濃厚になっているところぐらいである。
中学生高校生向けに書かれた、ということが、作品の質と全く関係がないことは、今さら言うまでもない。
話の進行の都合で、中学生高校生向けの小説は、この両文庫だけが扱っているかのような印象を受けられたかもしれないが、もちろん、他の出版社の文庫からも出されている。また、岩波書店では、ヤング・アダルト向けの叢書で海外の青春小説を出版しているし、晶文社でも同傾向の小説を出している。だが、ヤング・アダルトという言葉には、昨今はやりの”ピーターパン”の匂いがつきまとう。中学生高校生よりも上の年代に読まれているのではないだろうか。作品の質は確かに高く、文学性も豊かで、洗練されてはいるが、私はイキの良さで、ソノラマ、コバルトのほうがまさっていると思う。
コバルト文庫だけに書いている訳ではない、という点で赤川次郎と共に新井素子さんは別格扱いである。講談社から『あなたにここにいて欲しい』、角川書店から『ひでおと素子の愛の交換日記』が出版され、しかもそれなりに売れているという状況を考えればこの認識は正しい。しかし、かわいいか、かわいくないかを評価の基準とする独特の哲学で構築された作品世界
とは作品のどこを根拠にこう判断したのかがよく判らない。
朝日新聞1984/08/31夕刊4面(「BOOK TIMES 本の情報」面)
「読まれています」のコーナーより。この時期売れている本のリスト。タイトルは順不同。
- 『恋文』連城三紀彦(新潮社・950円)
- 『思い出し半笑い』吉田直哉(文藝春秋・950円)
- 『北能登殺人事件』西村京太郎(光文社・680円)
- 『ひでおと素子の愛の交換日記』吾妻ひでお・新井素子(角川書店・990円)
- 『何が権力か』秦野章(講談社・1000円)
- 『蛍・納屋を焼く』村上春樹(新潮社・800円)
- 『遊字典』現代言語セミナー編(冬樹社・1480円)
- 『魔獣狩り(暗黒編)』夢枕獏(祥伝社・690円)
- 『拡がる輪』ロバート・B・パーカー(早川書房・1200円)
- 『十年後(ビジネス編)』グループST(光文社・680円)
- 『聖なる河』身延典子(講談社・980円)
- 『気まぐれコンセプト』ホイチョイ・プロダクション(小学館・780円)
- 『よくひとりぼっちだった』M・ロバートソン(文藝春秋・980円)
- 『あなたにここにいて欲しい』新井素子(文化出版局・880円)
- 『ピーター・パン・シンドローム』ダン・カイリー(祥伝社・1600円)
- 『愛の如く』(上・下)渡辺淳一(新潮社・各950円)
- 『毒針巷談』北野武(太田出版・780円)
- 『ト短調の子守歌』赤川次郎(新潮社・730円)
- 『闇狩り師』夢枕獏(徳間書店・680円)
- 『テクノストレス』クレイグ・ブロード(新潮社・1600円)
朝日新聞1984/09/4(火)2面・縮刷版P.114
徳間書店の広告より。
才気が躍動する夢と感動の世界
『ラビリンス 迷宮』 新井素子 定価650円
遠い未来。人類は再び神話の世界に回帰していた。死にたい神様と二人の美少女。知恵と冒険のファンタジー!
朝日新聞1984年9月16日日曜版26面(「BOOKSぶっくす」面)
「よみもの」より。新刊本の内容紹介。
人間の深層意識下にある愛と憎しみをテーマにした書き下ろしSF小説。知能抜群だが、実生活能力はゼロの祥子と、彼女を世話し続けてきた母性本能のかたまりのような真美(まみ)は親友だった。が、人の心が読める「精神感応能力」をもつ綾子が現れて、異変が起こる。「探さないで」と真美に置き手紙して祥子が失跡してしまう。以後、三人の女の子を中心に奇妙なストーリーが展開。異常心理、幻想の世界が、話し言葉そのままのよどみのない文章で描かれる。(文化出版局・八八〇円)
朝日新聞1984年9月20日(木)3面(広告欄)
”「集英社文庫」&「集英社文庫コバルトシリーズ」女性のためのBookフェスティバル”の広告。
即効性ハナイガ美容ニ良イ
と女性にアピールするためのキャッチコピーが大書きされ、佐藤愛子を描いた大きなイラストが、
いい本は、女の曲線を作ります。
と語れば、その横では新井素子さんを描いた小さなイラストが、
読んでると、ジワジワきれいになる気がします。
と語っている。本当に新井素子さんがこう言ったのかどうかは定かでない。ちなみに似顔絵はあまり似ていない。新井素子さんがコバルトの作家を代表してこう言っているのがポイントである。フェアの内容は下記の通り。
女の曲線を作るメニュー 集英社文庫
- ♥九月の新刊
- 『娘と私の天中殺旅行』佐藤愛子
- 悪天候も、タタリもなんのその!奇妙な親子コンビのスペイン珍道中。定価280円
- 『ちょっとだけトラディショナル』木村治美
- 親子の関係も愛のカタチも変わってきた。いま、新しい生き方とは…。定価300円
- 『女』津村節子
- 一人息子が結婚したいという。だが相手は37歳…。女のエゴを探る。定価280円
- 『語りかける女たち 自作自演の愉しみ』牧羊子
- コトバ、四季、料理…。毎日を愉しくする工夫を優しくアドバイス。定価420円
- 『結婚飛行』平岩弓枝
- 自分の可能性を試したい…大女優をめざしたOLの恋の行方。定価460円
- 『鏡の中の真珠』(上・下)源氏鶏太
- 恋人に失望した麻子に縁談が持ち込まれる…。愛と幸せを探る。定価(各)440円
- 『自然・動物・我が愛』(上)田中光常
- 元軍人ながら人一倍臆病。そんな著者が世界中の動物を撮り歩く。定価440円
- ♠話題のベストセラー
この三ヶ月間にはこれだけ名前が発見できる。こんな時代もあったんですよ、若い皆さん。
『あなたにここにいて欲しい』が発行された時、俺は高校一年だった。高校の帰りに掛川の戸田書店(移転前)で見つけ、快哉を叫びながら買った。ちなみに『ひでおと素子の愛の交換日記』は買わなかった。エッセイは関心の外だったからである。この本を読むのは文庫版が発売されてから。この時より2年後のことである。