佐野裕『平成の巫女』。

著者の佐野裕氏は友人の友人で、学生時代はよくつるんでプロレスを見に行ったりした間柄である。卒業以来疎遠となったが、友人から本を出版したことを聞き、彼がどんなことを書いたのか野次馬的に興味を持ったので読んでみた。
現代の巫女さんについての本である。”「まごころ」をつぐ娘たち”との副題が付いている。タイトルを最初に聞いた時、おたく領域に於ける記号としての巫女のことかと勘違いしたが、アニメや漫画には関係ない至極真面目な内容である。帯には、

「始まりは”感謝の心”です」

失われつつある美徳を体現しながら、現代を生きる女性、巫女。

身近で遠い彼女たちの素顔から、日本人の「今」を透視する。

と書いてある。
現役の巫女さんたちへのインタビューを中心に構成され、彼女たちの口から巫女になった動機や巫女の職分などが語られている。読んでみれば、今まで巫女さんのことなど何も知らなかったことに改めて気付かされる。関心すら持ったことのない分野なので話がいちいち興味深い。現代社会において見過ごされがちな巫女さんという一部分に焦点を当てて、社会の断面を切り取って見せてくれたのが面白かった。好著であると思う。偉そうですまん。

東京は日枝神社月次祭の次第が書いてある箇所があるのだが、途中に教育勅語」奉唱とあったのには驚いた。俺も戦後の民主教育の落とし子であるので、「教育勅語」は否定されるべき戦前の価値観であるとの認識が身に染みている。明治天皇が一人称で語った内容に、大日本帝国臣民でなく日本国国民である俺としてはあんたにそんなこと言われる筋合いはねーよと違和感を感じずにはおれない訳で。それが宗教儀式に取り入れられていることに戸惑ったのである。現代の神社でも戦前の国家神道天皇崇拝の色を濃く残しているということだろうか。他の神社のことは知らないし、儀式の中で「教育勅語」を奉唱することに宗教的にどのような意味があるのかはよく判らないのだが、興味を惹かれる事象ではある。