『神狩り』の思い出。

大学SF研の読書会で『神狩り』が取り上げられたことがある。推薦したのは俺である。SF研の同期に哲学科で分析哲学を専攻している奴がいて、『論理哲学論考』のハードカバーをいつも小脇に抱えて持ち歩いている彼が、冒頭でヴィトゲンシュタインが思わせぶりに登場してくるこの話をどう読むのか聞いてみたかった、というのが推薦した動機の一つであった。彼にはどうやらあまり興味を惹かれる話ではなかったらしい。その場で古代文字の特異とされた点「十三重に入り組んだ関係代名詞を人間は理解することができない」は誤りではないかと指摘された。そんなことはないだろうと言うのである。
その少し後のこと。彼が受講していた「言語学概説」の講師がアイドルマニアでSFファンだというので親近感を持ち、もぐりで講義を受けに行ったことがある。内容はピジン・イングリッシュについてだった。講義終了後に彼と一緒に講師に話しかけ、下らない話などもしながら『神狩り』の古代文字のことも尋ねてみた。さすがに『神狩り』は読んでいたそうで、「十三重に入り組んだ関係代名詞を人間は理解することができない」なんてことはない、と言っておられた。自分の好きな小説のあら探しをされたようで当時は不快に思ったりしたものだが、あの頃は好奇心に駆られるままに知的刺激に満ちた生活を送っていたなあと懐かしく思い出すのである。
ちなみにその先生は伊藤麻衣子(現いとうまい子)のファンであったのだが、今もまだアイドルマニアをやっているかどうかは定かではない。