大槻ケンヂ『オーケンの、私は変な映画を見た!!』。
感想
読了。図書館で借りてきた本。映画フリークとしても名高い大槻が、今までに見た中でもとびきりの変な映画を自らの青春をも振り返りながら紹介するという体裁のエッセイ集。タイトルが何やらUMAや宇宙人との遭遇談を思わせるのがいかにもである。『キネマ旬報』に連載された「オーケンのなんかヘンなの見ちゃった」を再編集し大幅に加筆訂正したもの、とある。大槻の映画話は既刊のエッセイ集でもたびたび出てくるが、その集大成といった趣である。
俺の好きな『ねらわれた学園』もきっと取り上げているに違いない、と思っていたら案の定、”禅問答に理解不可能ギャグの応酬、それでも好きだぜ!「ねらわれた学園」”というタイトルがあった。この回において大槻は、ホントかウソか知らないが『ねらわれた学園』の薬師丸ひろ子の相手役オーディションに応募しようとした過去があることを暴露している。薬師丸ひろ子のファンだったらしい。そして、この映画がいかに「ヘンな映画か」をまくしたてた後、それでも大槻はこう語る。
じゃ、嫌いかと言われたら、とんでもない、大好きだ。我が生涯何番目かに好きな一本だ。チープで、サイケで、不条理で、そこに手塚真の、場の雰囲気をまるでわかっちゃいない異常な芝居までが加わって、他のいかなる作品とも似ることのない、解説不能の面白さを奇跡的なバランスで構築している。
これについては全く同感で、一個一個の演出を個別に取り出せばろくでもないものばかりだが、それらを意識的に貫き通した結果においてこの映画はリアリティの地平から遠く離れ、全体を通しておとぎ話のような不思議な雰囲気を醸し出すに到っていると思うのである。以上のようなことを力説しても判ってくれる人は今までに一人しか会ったことがないので、無条件に「同志」と認定したくなる。本文中では他に元ネタ話が興味深い。
たまに意味なく現れる革ジャン男。なぜか、ヘッドフォンをしながら涙している少年。前者は当時話題となったパチーノのゲイ映画「クルージング」の、後者は薬師丸ひろ子が出ていたヘッドフォンステレオCMのそれぞれパロディらしい。
どちらもパロディとは知らなかった。ってあの涙している少年がパロディだったと言われても、元ネタとシチュエーションが全然違うから納得できねーなー。それに薬師丸ひろ子が涙しているのはヘッドフォンステレオでなくテクニクスのシステムステレオのCMでなので訂正しておきたい。ヘッドフォンで音楽を聴いている薬師丸ひろ子の目からひとしずくこぼれた涙が頬を伝う、という印象的なCMだった。何を隠そう俺はこのCMのポスターを持っているのである。大学の時のSF研の同輩がなぜか持っていて、たまたま薬師丸ひろ子の話をしていた時だったか、欲しいならあげると言われ、血の涙を流して感激しながら頂いたものである。あまりに畏れ多いためこの十年来一度も部屋には貼っていない。少年時代の大槻は部屋に薬師丸ひろ子のポスターを貼っていたそうだ。それを考え合わせると、あの当時の薬師丸ひろ子のかわいさに共感できない人には『ねらわれた学園』は敷居の高い映画なのかも知れない。
- 『オーケンの、私は変な映画を見た!!』,大槻ケンヂ,キネマ旬報社,1400円+税,ISBN:4873762499
新井素子さんの名前が
で、この本の中に新井素子さんの名前が出てくる。新井素子さんが出演した映画『星くず兄弟の伝説』が取り上げられているのである。題して”これがダメ映画の基準だった! 「星くず兄弟の伝説」の伝説”。1985年に見たこの映画のあまりのダメさにそれ以来「ホシキョー」はダメ映画の代名詞として自分の中で絶対的な地位に君臨していたのだが、2002年に発売されたDVDを見返してみたら意外にも面白くて驚いた、という話だ。本文では大槻少年がこの映画に対して抱いた淡い期待がこのように書いてある。
近田春夫の名曲『星くず兄弟の伝説』を下敷きにしたこの映画は、当時のサブカルチャー少年にはハリウッド大作以上の超期待作であった。なにしろ日本版「ファントム・オブ・パラダイス」を目指したロックミュージカルで、しかも80年代最先端流行陣がこぞって集結するというのだから。景山民夫、中島らも、戸川純、川崎徹、前田日明、サンプラザ中野、渡辺和博……カメオ出演者の名がチラシにズラリと並んでいた。今なら「それじゃサブカルかくし芸大会だよ」と冷静なつっ込みも入れられようが、当時は胸躍ったのだ。何より監督は自主映画界のプリンス手塚真だ。「MOMENT」「SPh」といった彼の自主作品上映会に通い、彼の短編が放映されるテレビ番組『もんもんドラエティ』(※)もかかさず観ていた僕としては、期待膨らまぬわけにはいかなかったのだ。
新井素子さんの名前は本文ではなく、この部分の脚注の中にある。まずは『星くず兄弟の伝説』*1の脚注。「80年代最先端流行陣」の「……」の分をフォローするかのように記載された出演者たちの中の一人として。P.129より。
星くず兄弟の伝説(85)
監督/手塚真
出演/久保田しんご、高木一裕、戸川京子、尾崎紀世彦、ISSAY、三谷昇、伊武雅刀、高野寛、森本レオ、新井素子、森田一義、島田紳助、山村美智子、三宅恵介、モンキー・パンチ
ミュージシャン”スターダスト・ブラザーズ”が活躍するロック・ミュージカル・コメディ。脚本・監督は高校生の時から8ミリを手掛けて高い評価を得ていた手塚真。これが第1回劇場用監督作品となる。
さらに『もんもんドラエティ』*2の脚注にも。P.130より。
※もんもんドラエティ(81)
演出・出演/手塚真
出演/岸田森、矢野ひろみ、小中和哉、犬童一心、太田達也、今関あきよし、三留まゆみ、新井素子
テレビ東京系で放映されたドラマ&バラエティ番組。その中の1コーナーとして人気を博したのが、監督の手塚自身がMCを務めた『お茶の子博士のホラーシアター』。8ミリで撮影されたザラついた映像と残酷なスプラッター、ブラックジョークが盛り沢山で、サブカルファンからカルト的支持を集めた。SFXは原口智生が担当。02年にDVD化。
上記脚注の中にこの本の濃いイラストを描いている三留まゆみの名前を発見して驚いた。DVDの付録パンフレットで確認すると「第4怪 もっとも危険な約束」の出演者であるようだ。いやこの人がどういう人か知らないんだけど、意外な処で人間って繋がってるんだなあと。
*1:この映画の詳細は「出演リスト:星くず兄弟の伝説」を参照のこと。
*2:新井素子さんが出演した「怪」の詳細は「出演リスト:もんもんドラエティ」を参照のこと。