「五点リーダ」続き。(2016-05-09追記あり)

1980年代終わりから1990年代はじめころに混乱があった、のかもしれません。ここ最近の、ハヤカワ文庫、例えば「グイン・サーガ」や「ペリー・ローダン」は本文中は五点リーダになっています。

「tsupoの日記」2005/07/11:[雑記]五点リーダ

あれ、そうなのかと驚いて『グイン・サーガ』第101巻『北の豹、南の鷹』(2005年)を読み返してみたが(102巻はまだ読んでないのですいません)、やっぱり文中で五点リーダは使われていない。三点リーダが二個並んだ「……」が普通に使われている。それどころか会話文で沈黙を表現する場合など、

「………」
「案ずるな」
スカールは云った。

三点リーダが三個並べて使われていたりする。これはハヤカワ文庫の共通仕様なのか、それとも栗本薫オリジナルなのかはよく判らないが意外な発見であった。
さて、新しい書籍を見た処でそれではもっと以前の小説ではどうだったのか。星新一の『妖精配給会社』ハヤカワ文庫JA*1(1973年)を見てみよう。本文中ではやはり三点リーダ二個並びが使われている。

「はい、進んでおります。もっと能率を上げたいのですが、まだそろわない資料が、ございますので……」

してみると、本文中のリーダ記号に関しては「五点リーダ」は使われずにずっと三点リーダ二個並びが使われてきたというのが実際のようだ。サンプル数が少ないので根拠としては弱いが、まあテストデータが膨大な数に及ぶ場合は最初と真ん中と最後が合っていればほぼよしとするってことで。
tsupoさんの日記によるとタイトルに関しては出版者側で混乱があったらしく、目録で「五点リーダ」と「六点リーダ」が混在していたことがあったとのこと。また、

「…‥絶句」は本当は「……」にしたかったけどダメだって言われたんで、6つめの・を「絶句」にした、って聞いた記憶があるんですけど、記憶違いかなぁ。

のだなのだ掲示板NEO過去ログ29:↓ごめんなさいm(_ _)m。のださん。投稿日:99年11月9日<火>23時00分

これは記憶にないなあ。タイトルの由来は『・・・・・絶句』下巻の単行本版あとがきに書いてある。中学時代の精神的処女作『絶句』を再び書いていた新井素子さんと久しぶりにあったご友人が、そのタイトルの由来を忘れていた新井素子さんに説明する件である。

「由来も忘れてつけたの……。あのね、これ書いてた時、もとちゃん、『あー、タイトルが思いつけん、思いつけん、思いつけん』って絶句して、やけになって、『絶句』ってタイトルにしたんでしょうが」

『絶句』という言葉が先にあったようなので、六番目の「・」を「絶句」にしたというのは冗談としては良くできているが信憑性に乏しいのではないだろうか。
で、結局「五点リーダ」とは何なのか、『ひとめあなたに・・・・・』と『・・・・・絶句』ではなぜ「五点リーダ」が使われたのか、という最初の疑問の答えについてはよく判らないままなのだった。

2016-05-09追記

上で「グイン・サーガ」の本文中で使われていた
「………」(3点リーダ3つ)
が何であるのかよく判らないと書いたが、この符号の使用方法を記した公文書が存在することが判った。1946年(昭和21年)3月に当時の文部省教科書局調査課国語調査室が作成した「くぎり符号の使ひ方[句読法](案)」である。

www.bunka.go.jp
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/series/56/pdf/kokugo_series_056_05.pdf(PDF)

www.bunka.go.jp
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/pdf/kugiri.pdf(PDF)


それによると「………」は「テンセン」と呼び、

  • 「会話で無言を示す」
  • 「つなぎに用いる」

とのこと。この場合はまさに前者に該当する。現在出版されている小説では「会話で無言を示す」場合に三点リーダ2つ並びの「……」を用いるのがほとんどではないかと思われ、三点リーダ3つ並びは栗本薫のオリジナル表記法かと浅墓にも思ったりしたのだが、歴とした根拠があった訳である。
同じ項目では「……」「…」(3点リーダ2つ/1つ)を「テンテン」と呼び、

  • 「話頭をかはすときや言ひさしてやめる場合などに用ひる」
  • 「引用文の省略(上略・中略・下略)を示す」

としているのも興味深い。
栗本薫の他の小説でもこの表記が使われていたかどうかというのは気になる。出版社によっては校正で「……」とされてしまうことはあるかも知れない。

*1:新井素子さんが読んで感銘を受けた『妖精配給会社』はこのハヤカワ文庫JA版である。