有川浩『海の底』。

読了。『塩の街』と『空の中』が面白かったので買ってみた第三作である。
これも面白かった。というか読んでいて気持ちがよかった。主要登場人物が20人くらい登場するのだが、それぞれキャラクター付けがしっかりなされており、しかも根っからの悪人は登場しないというのがその理由だろうか。自分の職分を全うしようとする大人たちはかっこいいし、子どもたちは未熟さ故に様々な軋轢を生じさせるのものの成長していく過程がしっかりと描かれている。充分な読み応えと爽やかな読後感があった。
困ったことに、読み終わって以来テレビでザリガニやエビを目にするとギョッとしてしまうようになった。それだけ描写が真に迫って怖かったのである。
シリーズ物でない長編を三冊読んで外れがないって、今更だが有川浩はちょっと凄いかも知れない。個人的に注目することにしよう。

追記

そう言えば有川浩の短編小説とインタビューが掲載された『野性時代』があったなと思い、部屋の中を捜して読んでみると、これがなんと『海の底』の外伝ではないですか。登場人物の一人に関する出来事を描いた話で、タイトルを『クジラの彼』という。本編ではさらっと流して書いてあったが、その裏にこういう経緯があったとは。小説としても普通に面白いし、もちろん『海の底』を前もって読んでいれば、外伝のラストシーン直前におけるその登場人物の心理により深い共感を覚えることだろう。俺がその例である。感想文を書いた直後に思い出したのは幸いであった。