岡崎裕信『滅びのマヤウェル〜その仮面をはずして〜』。

読了。第4回スーパーダッシュ小説新人賞で大賞を受賞した二篇の内の一篇『その仮面をはずして』を改題、一部改稿して出版された作品である。
以下ネタバレを含む。
前半パートを読んでいる時は主人公の設定に納得できずにイライラした。主人公の基本設定である、小さい頃から女が男のふりをして周囲を欺きしかも16歳になるまでばれていない、ってのは無理があり過ぎる。学校生活をちょっと考えただけでも、トイレはどうしていたのか、体育の時の着替えはどうしていたのか、水泳の授業はどうしたのか、など疑問点が次々に湧いてくる。この点は高橋良輔による選評の以下の部分と概ね同感である。

しかしどう考えても「倉持ユーキ」の設定はぞんざいではないだろうか。例えば彼女の性を隠す困難さはここ1,2年のことではないだろうし、あらゆるシチュエーションで「僕、ほんとは女なんだ」の一言がどうして言えないんだという思いも付きまとう。

他にもおかしいんじゃねーかと思った部分はある。あるのだが、しかし、である。
中盤を過ぎた頃からそんな些細なことはほぼどうでもよくなった。物語の進行と共に文章の加速感が違和感をぶっちぎって強まって行く。キャラクターの強烈な個性が相乗効果となりページをめくる手が止まらない。人物の陰影の描き方のあざとさや、いきなり一人称の話者が切り替わる視点の転換、それにラストシーンの不自然なまでの軽さなどもいっそ小気味いい程である。気が付くと読み終わっていた。いや読み終わらされていたと言うべきだろうか。俺が学園青春物には弱いという相性のよさもあったのかも知れないが、物語の運び方が随分と上手いと感じた。しかも面白い。
ちなみに、新井素子さんの選評は下記の通り。

同じく、大賞の、『その仮面をはずして』。これは、褒めている人が多いので、あえて苦言を。変な処が多すぎると思うの私。無式を厳密に考えると、真綾の能力の発動の仕方は、あまりに御都合主義的ではないか? 条件が同じで、超能力が発動したりしなかったりするし、その後の展開も、とても恣意的だ。また、ラスト、あんだけ破壊的なことをしておいて、この結末はないだろう。

この指摘が出版に当たってどれほど改稿に反映されたのかはよく判らない。少なくとも真綾の能力の発動の仕方は一応説明はなされていたように思う。確かに読んでいる時「なんで?」と首をひねることもあった。しかし繰り返して言うが、物語の勢いが増すにつれその綻びにこだわる閑を与えないほど読ませてくれた小説であったと個人的には思うのである。なかなか気持ちのよい読書であった。