影名浅海『影≒光 シャドウ・ライト』。

読了。第4回スーパーダッシュ小説新人賞で佳作を受賞した『Shadow&Light』を改題し、一部改稿した作品である。
以下ネタバレを含む。
つまらない訳じゃないんだけど、じゃあ積極的に面白いかって言うと素直に肯けない。物語は長編と言うより全四話からなる連作短編で成り立っている。一応各話ごとにクライマックスがあるのだが、話は起伏に乏しく盛り上がりに欠ける印象がある。
新井素子さんは選評でこんなことを仰っている。

佳作になった、『Shadow&Light』。決め台詞がきっちりツボにはまって決まっているのに、登場人物の感情の流れにも素直についてゆけるのに、何故か、印象が薄い。これ、パワーバランスが悪いんじゃないかな。光輝が、強すぎるの。この作り方では、全然、ハラハラドキドキできない。

パワーバランスが悪いってのに激しく同意。登場人物の強さの遠近法がきちんと描かれていないために戦闘シーンが白けるのは否めない。登場する妖魔が全て弱すぎる。最強である筈の光輝の父にしても、最初から全力で戦っていれば素手でも息子など及びもつかないほど強いのに、そうしなかったために光輝に家宝の呪具を壊されるという大失態を犯している。作中では光輝が暴走したため呪具を壊してしまったという話の流れになっているが、あれは明らかに親父の油断であり、必要もないのに戦いの場に呪具を持ちだした親父がはっきり言って悪いのである。なので、最後の方にある光輝の心の葛藤が全く意味のないものに俺には思えた。素手の親父に完膚無きまでに叩きのめされた光輝が劣等感から力を暴発させて家を吹っ飛ばし、その余波で結界に守られていた呪具を誤って破壊してしまった(で、怒った親父に再度こっぴどくやられる)、とかなら判るのに。
あと、呪術や妖魔などの超自然現象が公式に認められている(らしい)世界なのに、その社会背景に全く言及していないのは不満である。呪術師たちが国家の機構に組み込まれるまでの歴史とか、国家資格について具体的にちらっと触れたりすれば、もっと作品世界に奥行きが出ると思った。