本屋で『週刊文春』を立ち読みしていたらふいに声をかけられた。女性である。小さな子どもを重そうに抱えている。眼鏡の奥から人なつこそうな目がこちらを見ていた。一瞬誰だか判らなかったが名前を言われてようやく思い出した。バイトをしていた当時、一緒に働いていた子だ。あの時ってまだ大学に入学したばかりとか言ってなかったか。それがまだイメージとして鮮やかに残っていたから、いきなり子どもを抱えている姿を見てもどうも違和感があって判らなかったのである。なんか子どもが子どもをだっこしているって感じだ。
結婚していたのも知らなかったのだが、相手はバイト仲間だった男の子とのこと。交際が順調に発展して結婚に至ったらしい。二人で一緒に俺が働いていた店に何回か来たことがあったので、ああやっぱりね、と深く納得する。子どもの顔が父親そっくりである。大きいね〜と言ったら、身長も父親似だと笑っていた。幸せそうで微笑ましい。
妙な感慨を覚えた。考えてみれば俺がこちらに帰ってきてから既に8年が過ぎようとしているのだ。今までそれを長いとも短いとも思ったことがなかったが、一人の人間が、大学を卒業して、結婚して、子どもを生む、という人生の節目を何度も迎えるには充分な歳月なのである。
その間に自分が何をし、また何をしなかったかを考えている。時の流れは容赦がない。