小林信彦『地獄の読書録』。

読了。図書館で借りた。先に読んだ読書エッセイ集に題名が出てきたのでついでに読んでみた。集英社(1980年9月)と集英社文庫1984年4月)から刊行された本に増補して〈定本〉としたものであるらしい。タイトルは見たとおりフランシス・F・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』の捩りで、数多の本を怒濤のごとき勢いで読破し紹介記事を書き続けた日々の記録という意味にも引っかけてある。
「〈定本版〉のためのあとがき」によれば、収録されたエッセイの初出は下記の通り。

第一部「みすてり・がいど」
推理小説専門誌『宝石』1959年1月号〜1963年12月号に連載された月評。国内で発行されたミステリをことごとく紹介している。
第二部「ブック・ガイド」
平凡パンチ・デラックス』(隔月刊)1965年9月号〜1969年9月号に連載した本の紹介エッセイ。ジャンルは問わず、ミステリ・SF・純文学・ノンフィクション等何でも紹介している。
第三部「ミステリの手帖」
文芸誌『海』1983年1月号〜12月号に連載したコラム。増補したのはこの第三部。

内容は『本の雑誌』に毎月掲載されているブックガイドと同じようなものなのだが、密度が違う。断然こちらの方が濃い。
俺はミステリをほとんど読んだことがないので登場する作家も作品もほとんど知らなかったが、尋常でない数の本をひたすら紹介し続ける作者の仕事に圧倒され、判らないながらもついつい最後まで読んでしまった。自分の生まれる前の話が大部分を占めているのが却って新鮮だ。出版界の歴史の一部を追体験しているような気分にもなる。何しろ筒井康隆が新人として紹介されているのですぜ。勃興期にある日本SF界の様子などがちらちらと書いてあるのも興味深かった。