小林信彦『本は寝ころんで』。

勢いでまた小林信彦の読書エッセイを読んだ。これも図書館で借りた本。1994年5月の刊行で、二部構成になっている。第I部は書き下ろし、第II部は『週刊文春』1991年8月29日号〜1994年1月27日号までに掲載されたエッセイを収録している。
紹介される本はなかなか興味をそそられるのだが、立て続けに読んでいるせいか著者の諧謔がいささか鼻につき始めた。「日本は文化五流国」とか西洋かぶれの安っぽい愚痴としか思えない。ちとうんざりする。
面白かったのは著者がスティーブン・キングの『シャイニング』はえらく褒めるのに、キューブリック監督の映画版はぼろくそにけなすことである。P.153より。

「シャイニング」は〈幽霊屋敷もの〉であり、〈超能力もの〉でもあるが、息がつけない作品である。この原作にくらべると、スタンリー・クブリックが映画化した「シャイニング」はひどいイモだ。(映画のラストは特にひどい。クブリックは怪談のABCも知らないらしく、もっとも初歩的なオチをつけて得意になっている。)

うーん、単なる怪談にするつもりがなかったからああなったんじゃないか。見解の相違である。あの映画の白眉は父親がどんどん狂気の方へと足を踏み入れていってしまう処で、原作では父親はそれでもまだ子供に愛情を抱いてるんだけど、映画はいっさいそんなのはない。ジャック・ニコルソンはまさに適役だった。映画批評もする著者としては「クブリック監督」側の文脈からのアプローチはしてくれないのかな。