『この恋愛小説がすごい!2006年版』。
本屋の中をうろついていたら発見。『このミス』の恋愛小説版である。発行元も同じ宝島社だ。恋愛小説にとりたてて興味はないが、この手の本を見つけたらとりあえず中を覗いて新井素子さんへの言及がないかどうかを調べてみねばなるまい。「グリーン・レクイエム」ならこのカテゴリで登場してもおかしくないよなあ、とか思いながら立ち読んでいたら、あった。「グリーン・レクイエム」じゃなくて「ひとめあなたに…」が。
この本、メインの企画は2005年恋愛小説ベスト10なのだが、他に「恋愛中毒女子が選ぶ All Time Best 恋愛小説」という企画も掲載されている。ノミネートされた20冊の中から蓮井聡子(22歳)、後藤さゆり(29歳)、水野舞(28歳)の三人がベスト10を選ぶという趣向で、その20冊の中に新井素子さんの『ひとめあなたに…』が入っていた。ノミネートされた作品は下記の通り。末尾の☆がベストに選ばれた作品である。
- 『冷静と情熱のあいだ』Rosso 江國香織/Blu 辻仁成☆
- 『きらきらひかる』江國香織
- 『博士の愛した数式』小川洋子
- 『センセイの鞄』川上弘美
- 『サヨナライツカ』辻仁成☆
- 『世界の中心で、愛をさけぶ』片山恭一☆
- 『ノルウェイの森』村上春樹☆
- 『いま、会いにゆきます』市川拓司☆
- 『恋愛中毒』山本文緒☆
- 『おいしいコーヒーの入れ方』村山由佳
- 『放課後の音符』山田詠美
- 『ぼくは勉強ができない』山田詠美☆
- 『キッチン』吉本ばなな☆
- 『ひとめあなたに……』新井素子☆
- 『ウォーレスの人魚』岩井俊二☆
- 『天使の卵』村山由佳
- 『眠れるラプンツェル』山本文緒
- 『肩ごしの恋人』唯川恵
- 『ベッドタイムアイズ』山田詠美
- 『パーク・ライフ』吉田修一
なぜこの20冊がノミネートされたのかは不明。選んでる三人が誰なのかも不明。同じ著者の小説がいくつも候補になっているのがオールタイムベストとしての説得力を欠いている気がしないでもない。桜坂洋の『ALL YOU NEED IS KILL』なんてすんごくよかったと思うんだが、これは場違いですね、すいません。ちなみに俺がこの中で読んだことがあるのは『ひとめあなたに…』の他は『ノルウェイの森』だけ。『博士の愛した数式』と吉本ばななにはちと心惹かれるものがあるが、他はあまり興味がない。
選評は以下の通りである。選者たちが吉本ばななの『キッチン』をベストに選んだ後で。
後藤 私もやってみようかな。うん、気持ちも距離も、まっすぐ彼の元へ続いてる感じがいいから採用。
蓮井 まっすぐ彼の元へ続いてる感じ、といえば『ひとめあなたに…』ですよ。あと1週間で地球に隕石が落ちてきて滅亡、そのときどうする? って話なんですけれど。周りはみんなパニクってるのに、主人公だけは「どんなに遠くても、彼氏に会いに行く!」って、東京から鎌倉まで歩いてくんですよ。「もしも今、地震が起こったらどうしよう」というレベルでなら、誰でも一度は考えたことあるんじゃないですか?
後藤 私の中・高時代ってまだケータイが普及してなかったから、本気で心配したことあるわ、そういえば。
水野 あれ? なんか、人肉のスープとか、そんな話が入ってたのってこの本だっけ。
蓮井 そうです。『チャイニーズスープ』。不倫してる夫の肉を、スープにして食べちゃうっていう。
後藤 はぁ……これこそ真の愛よね。ステキすぎる。
蓮井 冗談でもやめてください(笑)。そういうきわどいシーンもあるけれど、ひたすら彼を目指す感じ、10代の子に読んでもらいたいなー。これは入れましょう。
『ひとめあなたに…』は、言われてみれば確かに恋愛小説のくくりに入ってもおかしくない内容であり、俺自身そういう意識で読んだことがあまりなかったことに気付いたのは面白かった。俺が感銘を受けたのは、主人公の恋愛模様じゃなくて、自分が生きていくこと、生きてきたことにどう決着をつけるのか、という登場人物たちの人間模様の方であり、興味の中心はそこにあった。恋愛はむしろその付属物というような印象が今だにある。ジャンルはまあどうでもいいとして、小説として面白いのは間違いない。
問題はこの小説が本屋の店頭から消えて久しいことである。この本を読んで興味を持った人がいたとしても、古本屋を探さなければ手に入れることはできない。版元は早急にどうにかした方がいいですぜ。徳間デュアル文庫から復刊、とか、ないんですかね。
- 『この恋愛小説がすごい!2006年版』,宝島社,695円+税,ISBN:4796650504