栗本薫『風の騎士』グイン・サーガ第105巻。

読了。書店で購入。思いっきりネタバレするんでやばいと思う人は読まないが吉。
「風の騎士」の正体は案の定《ゴーラの赤い獅子》アストリアスであった。作中で最後にその存在が暗示されたのはアルド・ナリスとヴァレリウスとの会話の中ではなかったかとかすかに記憶しているのだが、それは一体何巻前の話だっただろう。ゆうに数十巻が過ぎ去ったのは確かである。作者でさえもきっと忘れているに違いないと噂されていた彼のこと、だからこんな彼の呪いに満ちた独白を聞くと大笑いしてしまうのである。

(前略)――誰ひとり俺の存在を思い出す者はなく、誰ひとり俺を助け出してくれようとするものもなかった。あの悪魔*1は、俺を利用するだけして、俺を地下牢に――誰にも俺の存在を知られることのないよう、閉じこめると――薄情にも、忘れてしまったのだ。(後略)

それでも本編に復活できたのはよかったよなあ、アストリアスくん。俺は絶対に二度と出てこないと思っていたよ。これが最初から決まっていた役割なのか、それとも「忘れてしまっ」ていた作者が急遽用意したキャラなのかは作者のみぞ知る。グインと対峙した時に時間稼ぎするセコい手口と、醜い顔を仮面で隠した復讐鬼という設定が、北斗四兄弟三番目の兄ジャギ様と重なって見えて仕方がなく、登場錚々やられキャラ的な臭いが立ちこめているのが気掛かりといえば気掛かり。これからの活躍にはとりあえず期待しているので頑張って欲しい。
この巻では出奔したパロの女聖騎士伯リギアも再登場。スカールと一緒にいるのかと思いきや、姿が見えなかったのでどうしたのかと思っていたら、未だに出逢えないままスカールを追って放浪していたらしい。哀れな。彼女にはスカールと添い遂げてほしいと思っているが、さてこの先はどうなるか。
後もう少し「風の騎士編」が続くようである。イシュトヴァーンの隠し子の行く末もろとも先の展開が気になるのである。

*1:引用者註:アストリアスを騙して一芝居うった張本人、アルド・ナリスのこと。その後も何らかの陰謀の手駒として使う予定であることが示されていたのだがそれっきりになってしまい、当のご本人は先にドールの闇へと落ちてしまわれた。