海原零『銀盤カレイドスコープ』vol.6 ダブル・プログラム:A long, wrong time ago。

読了。発売時に買った本。今頃読んだ。この巻の主役はまたしても桜野タズサではなく、その仇敵であるドミニク・ミラーと、先輩格である至藤響子の二人である。彼女らの一人称が交互に、自分とフィギュアスケートの関わり、そして2009年に行われた世界選手権を語る。
文章は相変わらず漢字漢語を多用し、現代の若い女性の言葉遣いとは到底思えない。持って回った言い方もうざったい。内容の方も4巻以降はどうも話の盛り上がりに欠け、なんでタズサの成長物語にしないのだろうかと不満に思っていた。しかしこの巻を読んで、物語の構成にはようやく納得できた気がした。
4巻以降に焦点が当たった脇役たち、彼女らもまたタズサと同じようにフィギュアスケートに人生を懸け情熱を注ぐ一人の人間、一個のアスリートである。各人が全く違う立場から競技に参加し選手として活躍する様を描くことは、読者にその競技の輪郭と奥深さを伝えることになる。そこを判った上で、さらに作品全体を俯瞰した時に初めて、彼女らが織りなす人間模様が銀盤の上にカレイドスコープとなって結実するのが見えてくるという仕組みではないのか、と。だからタイトルが『銀盤カレイドスコープ』なのか、と。いや作者がどう考えてるのかは知らないけど、そう思うことで個人的な引っかかりがすとんと抜け落ちたのである。
このように考えが改まったのは、先日行われた全日本フィギュアスケート選手権で、女子選手たちが繰り広げた苛酷で華麗で感動的な激闘を見たことに影響されているのかも知れない。フィギュアのことはよく判らないが、多分むちゃくちゃ高いレベルでしのぎを削っているんであろう彼女らの演技はいずれも鳥肌が立つ程の迫力だった。滑走した選手の誰もが氷上で自分を主役とする物語を紡ぎ出す様は圧巻であり、それらのせめぎ合いに俺はテレビの前でひたすら圧倒されていた。
あとがきによれば、次巻以降はいよいよクライマックス、バンクーバー五輪で激突する選手たちが描かれるそうだ。カレイドスコープがどのような模様を描くのかが非常に楽しみである。もう迷いはない。こうなったら最後まで読んでみる。