『S-Fマガジン』1978年7月号。

矢野徹の連載インタビュウ企画「この人と一時間」、その第九回に星新一が登場している。1978年と言えば星新一が強力に後押ししたことによって新井素子さんがデビューして間もない頃のことである。このインタビュー中でも星新一が期待の若手として新井素子さんの名を挙げている。

――いまの新しい人のSFはどうです?
星 新井素子なんてのは、将来有望だろうな。
――うえーい(と、冷やかす口調でさけぶ)(笑い)あんまり新しすぎる……。
星 だけどあれにぼくは、新鮮な印象を受けたがなあ。
――そう、新鮮は新鮮ですわな。だけど、偉いもんだなあ。
星 うん?
――十七歳でしょ。
星 だけど、こんど「群像」の新人賞も十八歳の女の子だな*1……そういう活字世代がまた出てきた……。
――うれしいことだね。文字を書いてくれる……。
星 このあいだ三田誠広がある雑誌に書いた短篇を読んだら、それが完全なSFだったもんね。ちゃんとまとまってSFになっていた……。
――多くの人の書くものがだんだんSFめいたものになるのは間違いないだろうな。
星 うん。
――ふつうのものでは面白くなくなってくるんじゃないか……このあいだお会いした新井さんというお嬢さんは、人柄も良さそうだし、
星 しっかりしてるわなあ。
――かわいいな。
星 それに、あの最終選考のときに何篇か読んだけれども、ほかの人のはみなワン・アイデア、ワン・ストーリイなんですよね。筒井さんが五十枚に刈りこみゃあ良くなるって、どの作品についてもいってますよ。つまり短篇のあれなんですよ。それを規定枚数まで引きのばそうとしているんで、みなおかしくなってしまっている。そこへゆくと新井素子は、ちゃんと中篇の書き方で書いているから、ぼくはその点を認めるわけだ。
――それから、SFマガジンの八枚のがわりにうまくいっているのは、短いから、ワン・アイデア、ワン・ストーリイで書けるんだろうな。アマチュアの場合、どうしても短いもののほうが書きやすいだろうし。
星 どうかねえ。
――そらあ、あなたのように千本に近い作品というのは別として、アマチュアだってみなひとつやふたつはアイデアを持っているだろうが、しかし長いものになるとそこまで辛抱がゆきとどかないだろうからね。
星 でも、山田正紀のような若さであれだけのものを書くし、新井素子も書くし、だからそういう連中もいるわけだ、若い連中の中に。

奇想天外SF新人賞の結果発表から5ヶ月が経っている訳だが、星新一のバックアップが徹底していて凄い。矢野徹が「冷やかす口調でさけ」んだのは、新井素子さんが星新一の激賞を受けデビューしたという事情を熟知していたからだと思われる。
この時、新井素子さんはまだ17歳。『奇想天外』1978年2月号でデビュー後、受賞第一作*2となる短編「ずれ」を『いんなあとりっぷ』1978年4月号に発表していた。まだ作家としてものになるかならないかもはっきりとは判らなかった時期だったと思われる。

*1:中沢けいのこと。1978年に「海を感じる時」で第21回群像新人文学賞を受賞した。

*2:『いんなあとりっぷ』が新井素子さんに原稿を依頼したのは、正確には新人賞の選考結果を『奇想天外』が発表する前だった。星新一から新井素子さんのことを聞いた『いんなあとりっぷ』編集長が受賞作も読まずに依頼したとのことである。