大泉実成・著/関根虎洸・写真『爆音に焦がれて 森且行の挑戦』。

読了。図書館で大泉実成の著書のことを考えていた時にたまたま目についたので借りてみた。元SMAP森且行オートレースに転向した後の1年間を追いかけたルポルタージュである。訓練中に大怪我を負った1996年8月から再起してデビューを果たした1997年7月までが、著者の視点を中心に、本人、訓練所の教官、同期生、師匠へのインタビューなどから構成されている。俺はSMAPのファンでも何でもないが、『SMAP×SMAP』で森の卒業に際しメンバーが泣くのを見てもらい泣きしてしまったことを思い出した。あれからもう10年経ったのか。
初めは人気アイドルがなぜそうしなければならなかったのか、というスキャンダラスな興味が先行した。しかし著者の目を通して描かれる森且行は怖いくらいに真面目で頑固で、アイドルという言葉から想像される華やかな雰囲気とはほど遠い人間である。やがて自らの肉体が壊れることも顧みずに無茶をしてきた森の経歴を知った著者は愕然とする。必死にリハビリに取り組み、同期生との差を埋めようともがき苦しむ森の姿と、それは彼の性であるとしか言いようがないという認識が重なった時、著者が感じた戦慄を読者である俺も共有していた。
ここで初めて、俺はこの本の冒頭に三浦建太郎の漫画『ベルセルク』の中の台詞が一部抜粋されている意味を理解した。第9巻で髑髏の騎士が主人公ガッツに語った「もがく者よ*1 心するがよい」という言葉から始まる恐るべき予言は、ガッツの身に降りかかる絶望的な未来とほんの一筋の希望とも呼べないような希望を示唆する。まさに森の現状と未来を暗示するにふさわしい台詞ではないか。
「あがく者よ」というタイトルのあとがきで、著者は自分やこの本に登場した人を含む様々な場所で様々にあがき続ける全ての人間へ向けてエールを送る。この本に少なからず共感を覚えた者として、冒頭の予言の最後の段を記しておくのは意味のあることだと思われる。

絶望の淵で…
折れた剣を手に立ち上がる者のみが…
あるいは……………

*1:原文の「もがく」には足偏に宛(かが-む)という字が当てられている。