『月刊OUT』1984年2月号、捕逸。

星へ行く船』イメージアルバム(ロマン・トリップ/キングレコード)発売記念の、新井素子竹宮恵子の「新春初笑い対談」が掲載された雑誌。既に素研にはその情報は掲載済みだったのだが(→新井素子研究会:『月刊OUT 1984年2月号』)、迂闊なことに新井素子さんの名前が登場する箇所がまだあったのに気付いていなかった。メモしておく。

「U介&研二のアニソンスクランブル」(P.174-175)

アニメのサントラやイメージアルバムなど、アニメ・特撮関連の新譜レコードを紹介するコーナーである。今号で発売記念対談が掲載されたロマン・トリップ『星へ行く船』の紹介がP.175に掲載されている。『星へ行く船』と『ヨコハマ物語』の二つのイメージアルバムについてのU介氏と研二氏の見解がこちら。

研二 えーと、「星へ行く船」は新井素子さん原作のSF小説、「ヨコハマ物語」は、大和和紀さんの人気マンガをイメージ・アルバム化したわけなんですけど。U介さんは、どうでした?
U介 はっきり言って「星へ行かない船」と「ハラジュク物語」という感じですね。
研二 なんですか、それは?
U介 ようするに全然原作のイメージが感じられないって事です。詞なんか読むと、まあ考えてはいるんだろうけど、音が全然バツ。たんに今、流行しているサウンドで曲を作っただけで、必然性のかけらもない。思わせぶりなBGMとつまらないシティポップス聴くだけなら、松田聖子を聴いてたほうがまだマシですね。
研二 僕は、それなりに楽しめたんだけどなー。「星へ行く船」は、ロマンチックな部分が、よく出ていたし、「ヨコハマ物語」は、けなげでガンバリ屋の卯野ちゃんとオキャンな万里子が見えるようで、ほほえましかった。
U介 幸せのバガヤローッ。
研二 突然バガヤロのふりしてコマカスナつーの。
U介 むーん。

このU介と研二って誰だ? 話の展開が強引すぎて説得力が全くない。リアルタイムで読んでいた時にはそうは感じなかったものだがなあ。
ちなみに紹介されていたアルバムは下記の通り。

  1. 超時空要塞マクロスVOL V』(ビクター)
  2. 機甲創世記モスピーダ音楽集』(ビクター)
  3. 銀河疾風サスライガーII』(キング)
  4. 聖戦士ダンバインII』(キング)
  5. 特装機兵ドルバック』(ビクター)
  6. 『ジャムトリップ/ストップ!! ひばりくん!』(コロムビア
  7. 星へ行く船』(コロムビア
  8. 『ヨコハマ物語』(キング)
  9. 『タコは待ってるぜ!』(キング)
  10. 『スーパーギャルズ/メモリー』(コロムビア

懐かしすぎるタイトルが並んでいる。こういう時代だったのである。
『ストップ!! ひばりくん!』てこの頃だったのかあ。原作マンガは好きだったけどアニメはつまらなくて、すぐ見なくなった記憶がある。そう言えば、実生活ではひばりくんと耕作くんは結婚したんだよね。

「ブックリハウス」Vol.19

書評のページ。「曇天」というペンネームの人が書いている。誰だ? 掲載ページはP.176-177。「読書の傾向と対策」(コラム)と「ごほんですよ!」(書評)の二本立てで構成されている。
P.176の「読書の傾向と対策−83年エンターテインメント小説界をふりかえる」というコラムに新井素子さんの名前が登場する。

SFはこれまたジュヴナイルがSFに積極的なため新人が排出した。ベテランがこれといって新作を発表せず、川又千秋山田正紀といった期待の中堅が今年は静かだったため、自然に目は新人に向く。
人気の新井素子は置くとしても、SFの新人ではやはり神林長平ということになるだろう。「あなたの魂に安らぎあれ」や他のものも読ませ期待させてくれる。大原まり子も「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」で長編を読んだ時の不安をふき飛ばしてくれた。

新井素子さんは別格扱いである。まあ新人と言っても1977年のデビューから数えればもう6年が経っているのだが*1。ちなみに大原まり子の長編とは『機械神アスラ』のこと。
他に大長編SFが流行っているとして、『太陽の世界』(半村良)、『幻魔大戦』(平井和正)、『グイン・サーガ』『魔界水滸伝』(栗本薫)、『銀河乞食軍団』(野田昌宏)、”キマイラ吼シリーズ”(夢枕獏)、『エイリアン魔獣境』(菊地秀行)が紹介されていた。半村良平井和正栗本薫新井素子さんの談話やエッセイにもよく登場する作家である。夢枕獏は確かデビューが同じくらいの時期だったんじゃなかったかな? 年齢は断然夢枕獏の方が上だけど、それでもその当時は一番年齢の近いSF作家と言えば夢枕獏くらいしかいなかった、という新井素子さんの発言を読んだ気がする。
P.176の「ごほんですよ!」では、新井素子さんの『・・・・・絶句(上・下)』(単行本版)が紹介されている。

あたし、新井素子っていう19歳の大学2年生。SF作家志望の女の子。――そこへ突然現れたのは彼女の書いているSFの中にしか存在しないはずのキャラクターたち。
かくして、作者、作中人物入り乱れての混乱と冒険が起こるという、素子ちゃんの妄想インナースペースオペラ。作者の原点がうかがえるこの大長編、語り口にだまされ、心地よくすらっと読まされてしまう。ほんと、癖になっちゃいそう。
しばらく途絶えていた”新鋭書下ろしSFノヴェルズ”の1巻だが、最も新しいSF感性を味わってみたかったら、これに止めを指すだろう。なにしろ人気上昇中の新井素子がノッて書いたのがわかる力作だからだ。
なお、カバーは素子ちゃんの似顔絵というかイメージさえも創ってしまった吾妻ひでお画伯。装丁、中身ともどもぴったりフィットしてのお楽しみ本だ。

「読書の傾向と対策」で言及された『あなたの魂に安らぎあれ』と『機械神アスラ』は、『・・・・・絶句』と同じく早川書房の《新鋭書き下ろしSFノヴェルズ》シリーズから出版された本。最初に出版されたのが『あなたの魂に安らぎあれ』、最後が『・・・・・絶句』だった*2。関係ないが、各書に散見されるSF作家の世代区分について、生年とデビュー年を確認し、何が目安となっているのかを大まかにでもいいから検証してみたいと思っている。その内にやろう。
他に紹介されたのは下記の本である。

個人的な思い出として、当時の読書はこの書評欄をよく参考にしていた。俺は中学生だったのだが、上に出てきた『魍魎伝説』も読んだし、宇能鴻一郎の『秘本西遊記』を読んだのもこの欄で取り上げられていたからだった。菊地秀行に手を伸ばしたのもやはりここの影響だったような気がする。SFがよく紹介されていたのである。

裏表紙:ロマントリップ『星へ行く船

竹宮恵子の描いたジャケットのイラストが約半ページの大きさででかでかと掲載されている。横にはこんな宣伝文がやはりでかでかと付いている。

レコードで読む!?新井素子の話題作!

その解説。

素子姫ファン、待望のイメージ・アルバム。
気分はメロディアス、アダルト・ロックであなたもグッド・チューニング!

意味がよく判らない。
しかしこれくらいの広告を打とうとレコード会社が思うくらい、当時のアニメ雑誌界隈で『星へ行く船』の商品価値は高かったのだ、という傍証にはなるかも知れない。
「素子姫」の文字が『ファンロード』誌を中継して広まっている様子が見て取れるのは興味深い。

*1:デビューは1977年12月発売の『奇想天外』1978年2月号だった。この『月刊OUT1984年2月号だが、発売されたのは1983年12月。

*2:前にも書いたが、実はこのシリーズは完結していない。刊行予定だった夢枕獏の『上弦の月を喰べる獅子』は、後に『S-Fマガジン』連載を経て単行本化された。同じく刊行予定だった森下一仁の『闇にひしめく天使たち』は未だ書かれていない。