半村良『産霊山秘録』。

読了。図書館で借りた本。半村良の小説はほとんど読んだことがない。新井素子さんが大推薦していた作家であるので、ぼつぼつ読んでみようかと有名なこの長篇から手を伸ばしてみた。
太古より日本の歴史の影で暗躍してきた一族の動向を通して、戦国の世からこの作品が発表された現代へと400年の時代を巧みな構成で結びつけた伝奇小説である。異能力者たちを介在させることにより史上に著名な覇権争いが全く別の意味を持って描かれる様が凄い。タイムリーなことに山内一豊とその妻千代が割と重要な役回りで登場してくるのである。その出自が実は……という件など嘘の歴史の筈なのに違和感がまるでない。最後の部分、現代に舞台を移し物語が結末に向けてどんどん集束していく処は読んでいて鳥肌が立った。面白い。
著者の敗戦体験がそうさせるのか、登場人物たちは折に触れ平和を希求する言葉を発する。戦に焼かれ時の権力者に翻弄される一族の者どもや民衆の姿から持って行き場のない怒りや慟哭を感じた。悲哀に満ちた人間たちのその生々しさが胸を打つ。切ない物語でもある。
また図書館で他の本を借りてみよう。