夢枕獏『キマイラ青龍変』。

読了。書店で購入。《キマイラ・吼》シリーズの最新刊である。この巻は外伝で、登場人物の一人である龍王院弘を主役にした話である。
本伝のあとがきで夢枕獏は、物語から消えていた間の龍王院弘が遭遇した事件(既に《闇狩り師》シリーズの『崑崙の王』として出版されている)を、龍王院弘の視点から『キマイラ青龍変』として書いてみたい、と仰っていたような記憶があった。読み始めてからいつその話が始まるのだろうと期待している内に物語は終了してしまい、あとがきで何かそのことについて触れているかと思ったら一言もないのである。序章に「龍の紋章」、第一章に「龍の咆吼」と、『崑崙の王』上下巻のサブタイトルが付いている処が元の構想の名残だろうか。いささかがっかりしたのではあるが、それでも話としては面白く、415ページを一気に読み終わってしまった。
龍王院弘とその師匠である宇奈月典善、この最凶コンビの出会いと人となりを掘り下げつつ物語は進行する。本伝では知ることができなかった側面であるから興味深い。更に馬垣勘十郎なる凶悪な人物を登場させることで話は凄惨の気を帯びる。格闘シーンを中心に話が進む処などは《キマイラ》というより《獅子の門》のようだが、俺はもともとそちらは嫌いじゃないのでぞくぞくしながらページをめくった。この馬垣勘十郎、名前からすると馬垣勘九郎の血縁者のようである。本伝に登場することもあるのだろうか、そしたらまた完結が遠のいてしまうのではないか、などとビビりつつ、どうやら真壁雲斎とも知り合いであるようなので二人が立ち会う場面を想像したら興奮してさぶいぼが立ったりもするのである。
次巻についてはまた本伝に戻るらしく、朝日ソノラマの『ネムキ』で連載は進行中であるとのこと。いつ本になるのかはいつもながらに判らない。