「マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです。」発言の真意。

1981年の『SFアドベンチャー』誌の調査に取りかかったのである。2月号に新井素子さんのインタビューが掲載された同人誌『トラルファマドール』第2号の発売告知が掲載されていた。この同人誌はオークションで入手して手元にあるのだが、インタビューの内容を精査してはいなかった。登場した固有名詞などをチェックするために読み返してみた。
大変いいインタビューである。新井素子さんの創作の根幹に関わる部分(影響を受けた作家、小説作法など)が非常に具体的に語られている。これを読み飛ばしていた自分はどうかしていたのではないかと思えてくる。まあ調査を重ねていく内に作品世界の理解について若干の進歩はあったのだと思うことにしておこう。
で、この中に毎日新聞1978年1月22日朝刊に掲載されたあの言葉、大塚英志が大きく採り上げ俺が問題視していた新井素子さんの発言、

マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです。

について、新井素子さんがその真意を述べている部分がある。P.3-4より。

――『毎日新聞』でマンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったとおっしゃってますけど、『ルパン三世』の活字版が『あたしの中の……』だということですか。
新井 違うんです。あれは『毎日新聞』の人に話した時に、ごっちゃに話しちゃったのがいけなかったんですけど、その頃そういうのを書いてたんですよね、友達に見せてて。デビューしたんで中断しちゃったんだけど。だからこれから先みたいな感じで、ああいう風なかなりコミカルタッチのトントントンとテンポ軽快にいくような話を書きたかったんです。『ルパン三世』の活字版といっても、別に泥棒さんの話を書くというわけではなくて。あの軽快なテンポと、適当なギャグと、あの辺の感じが書きたかった。

つまり、大塚が言うように『ルパン三世』に代表されるアニメの世界をまるきり活字で再現しようとした、という訳ではなく、『ルパン三世』のように”軽快なテンポで話が進み適当にギャグも混じる”という小説をこれから書いてみたい、というのが真意であったようだ。テンポというか文章のリズム感というのは新井素子さんが小説を書き始めた当初からこだわっていた部分である。これをもって「アニメを写生した」とまで言ってしまうのは針小棒大な物言いなのではなかろうか。結局の処、短編「あたしの中の……」が”アニメを写生した小説”ではないことはこれではっきりした訳である。
その『ルパン三世』がどの『ルパン三世』であるかに言及されていないのは不満と言えば不満である。ただ、「コミカルタッチ」という発言からして、大塚が想定したアニメの第1期(旧ルパン)ではなく、このインタビュー時にも放送されていた第2期(新ルパン)と考えるのが妥当なんじゃなかろうか、と相変わらず考えている。これについては決め手はない。