筒井康隆『銀齢の果て』。

読了。書店にて購入した本。筒井が『バトル・ロワイアル』をやると聞いて読んでみた。あちらは中学生ひとクラスの殺し合い、こちらは町内会の老人たちによる殺し合いの三元中継である。「皆さんにはこれから殺し合いをしてもらいます」と金髪の登場人物が言う処*1など露骨にパロディを意識しているのではないかと思われる。まだ前途ある中学生達に比べ老い先短いが人間としての業は人一倍深い老人たちを題材にした着眼点がまず興味を惹く。理不尽な死に直面し生きようとあがく中学生たちと対比して、棺桶に片足突っ込んだ老人たちが同じように生きようともがんがら年端の行かない中学生にはとてもまねできないであろう醜悪な顔をさらけ出す様を突き放した視点から客観的にそしてまた滑稽に描く悪趣味さが面白い。物語の場面はころころ変わるのに章を立てることもなく改行のみでずっと文章が繋がっていく技巧も凄い。話の中では「処刑の熊」の件が笑えた。楽しく読めた小説であった。
描く対象の年齢の違いがそのまま印象の違いとなって残っている。『バトル・ロワイアル』の最後は生きるために逃亡する中学生を描いた。『銀齢の果て』は死に損なった一人の老人の惨めな姿を描いた。『バトル・ロワイアル』は「生きること」を問いかける。『銀齢の果て』は「生きること」と同時に「死ぬこと」について問いかけてくる。『バトル・ロワイアル』は俺の心の一冊である。『銀齢の果て』もかなりの勢いで俺の心に突き刺さった。

*1:バトル・ロワイアル』で「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」と言ったのは坂持金発(きんぱつ)先生だった。