榎本秋編『はやわかり!! ライトノベル・ファンタジー』。

読了。書店にて購入。新井素子さんの名前が登場するので読んでみた。小学館ライトノベル大賞ルルル文庫部門に応募してもらうための啓発本と言えばいいのか、ファンタジーライトノベルを書くための小説作法が書いてある。ルルル文庫というのは来年小学館から創刊される少女向けのレーベルのこと。巻末の募集要項を読むと応募原稿の内容は別にファンタジーでなくてもかまわないらしいのだが、わざわざファンタジーに絞った創作ガイドを刊行したのは、求人広告で対象人員欄に男女の別を書けないのでさりげなく女性のイラストが描かれている、みたいなものなんだろうか。小説を書くための30日ドリル、ファンタジーとはどういったものか、ファンタジーライトノベルの歴史や具体例や解説、などが収録されている。
新井素子さんの名前が登場するのは、第三部「ライトノベル・ファンタジーがわかる!」。「1.少女小説とその中のファンタジーの流れ」の章で、少女小説ライトノベルの成り立ちがコバルト文庫を参照して語られている。P.169より。

少女小説のスタイルが作り上げられたのは八〇年代初めのコバルト文庫でのことでした。この頃に読者とちょうど同じか少し上ぐらいの年頃の女の子が何人も作家デビューして、読者と同じ目線で書かれた作品が本屋の棚を飾ることになります。
この当時のコバルト文庫の代表的な作家三人、氷室冴子新井素子久美沙織を例として挙げてみましょう。

P.171〜172には「主人公と読者を対話させた新井素子」という項目があり、読者に語りかけるような作風は新井素子さんがパイオニアだった、ということが語られている。少女小説に話を絞れば確かに新井素子さんがパイオニアだったのかも知れないが、ライトノベルの歴史の中ではその先駆的作品として新井素子さんが愛読していた平井和正の『狼男だよ』の名を挙げておく。
他に事実誤認があるので指摘しておく。

代表作としては『星へ行く船』の名前を挙げましょう。舞台は人類が宇宙に進出している未来です。家族も地球も捨ている勢いで家出をして火星に向かった主人公・森村あゆみは、ひょんなことから大変な事件に巻き込まれてしまいます。

あゆみちゃんが乗った船は惑星シイナ行きだった。切符に書かれた目的地もシイナだった(『星へ行く船』P.7参照)。あゆみちゃんは地球どころか太陽系さえ捨てる覚悟で家出をした訳で、それがなぜ火星に住むことになったかと言えば運よく太一郎さんに保護されたからに他ならない。火星は当初の目的地ではなかったのである。