宇野常寛・更科修一郎『サブカルチャー最終審判 批評のジェノサイズ』。

サイゾー』で連載されていた対談の書籍化。「マンガビジネス崩壊寸前!」の章、「「原田知世症候群」に侵される、中年オタクたち」の項P.59に新井素子さんの名前が出て来る。事情がよく判らないんだけど、この二人はある年代の共通した趣向を持った人たちを「中年オタク」と分類して仮想敵にしており、その人たちの好きなものをここで貶すことによって「戦略的に」挑発しているらしき。

宇野 この世代の中年オタクは、ファンタジーの世界で王子と姫がくっついたりとか、ギャルゲーの世界のトラウマ美少女とか大好きなくせに、クラブやサークルとか、自分たちが本当に憧れているリアルな人間関係に恋愛というファクターが持ち込まれるのを、すごく嫌がるわけですよ。
更科 『タッチ』と同時期に連載していた、島本和彦の『炎の転校生』に、友花里ってヒロインが出てくるんだけど、作中での持ち上げ方が奇妙なんだよね。主人公やライバルが語る時に、すごくねじれた褒め方をするの。「両足を閉じると太腿に隙間が空くのがいいんだ」とか、きゃしゃで性的じゃない肉体に性的アピールを見出しつつも、同時に神聖化して不可侵にするような理屈を熱く語っているんだけど、これはやっぱり清純派アイドルへの褒め方だよね。あと、八〇年代「サンデー」の作家には、原田知世好きな人が多くて、子ども心に不思議だったな。
宇野 当時、おニャン子クラブとか『スケバン刑事』系に行かずに、まず角川映画系に走ってる【※9】ところで線が引かれているわけですよね。それも、薬師丸ひろ子はNGで、九割方原田に走る。薬師丸だと、セックスのにおいがしてイヤなんでしょう。一言で言うと、自分のことを拒絶しなさそうな不思議ちゃんですよね。谷山浩子を聴いてそうな感じ【※10】。
更科 あと、新井素子【※11】を読んでてね。そういう世代の文化圏がある意味、「サンデー」という雑誌のメイン購買層のひとつになっている。

P.60-61の脚注。

【※11】新井素子
(あらいもとこ/一九六〇年〜)SF作家。一九七七年デビュー。話し言葉をベースにした「素子文体」は、各界に広く影響を与えた。高橋留美子と並ぶ、中年オタクのグレートマザー。批評家の東浩紀さんも、やっぱり大ファン。

当時の実情を知らない70年代中〜後期の生まれの二人が後付けの知識で一生懸命語ろうとしている処に違和感を覚えるというか。ゆかりちゃんへの褒め方ってあれはギャグだしなあ。ゆかりちゃんのスレンダーな処がいいと力説する伊吹が、足の間の隙間がいいとか胸がないのがいいとかないのに時々パットを入れてちょっと膨らんでる時があってそれもいじらしくていいとか言って、これ聞いたゆかりちゃんが激怒して伊吹をボコボコにしてたよね。(記憶だけで書いてるんで間違ってるかも知れん。)
俺の場合、薬師丸ひろ子高井麻巳子おニャン子クラブ会員番号16番)→高岡早紀菅野美穂という変遷を辿った訳ですが、新井素子さんの小説が好きだと「中年オタク」と呼ばれちゃうんだろうか。いや俺は何事にも中途半端な人間なんで「オタク」を称するのはおこがましいんだが。

これも新井素子さんの名前が出てこなければ決して買わない本である。ちなみに、薬師丸ひろ子原田知世、新田恵利(おニャン子クラブ会員番号4番)の芸歴に共通する映像作品のタイトルって判る?