新井素子さんの最新短編「ここを出たら」を読んだ。ネタバレ。
5月1日に発売された新潮社の文芸誌『yom yom』2012年春号に新井素子さんの読み切り短編小説「ここを出たら」が掲載されたので発売日に買って読んだ。21世紀の新井素子さんはこういう奇妙な味わいの話をたくさん書いている。
「人間って、捨てたもんじゃない」とは新井素子作品の登場人物がいかにも言いそうな台詞なのだが、それを非人間の知的生物に上から目線で語られるとこんなにゾッとするものなのか、というラストシーンがよかった。何しろ我々は彼らにとって食糧だから。吸血鬼ネタということで「週に一度のお食事を」が読み返したくなる。
あたし一人称で話の途中に自己紹介が入る、というスタイルが懐かしい。反対に「iPad」や「初音ミク」などの社会風俗ネタが単語として出てくるのは驚いた。新井素子さんてこういうのに興味ないイメージがあったんだけど視界には入ってたのね、という意外さ。携帯電話を持っていないと日経のエッセイで書いていたのにやたらと携帯が出てきたり、とか。話を書く上で取材したんだろうか。それとも実際に持つようになったんだろうか。
あと密閉空間での排泄行為というのは、ここに書かれているよりもたぶんもっと厳しいんではないのかな、とか想像して嫌な気分になったりした。音がするし臭いだってあるしねえ。でもいつこの話と類似した状況にならないとも限らない、とは、震災後だから、そして次の地震が取りざたされているから、余計に思うのかな。重要な問題ではある。
yom yom (ヨムヨム) 2012年 06月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/05/01
- メディア: 雑誌
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