新井素子さんが選考委員を務めた集英社スーパーダッシュ小説新人賞第1回〜第11回の記録。

『書店ガール5』を読んでスーパーダッシュ小説新人賞のことを思い出したので選考委員を務めた新井素子さんの選評と受賞作をまとめた。個人的なメモである。出版社のWebサイトから該当ページは既に消えているためWebアーカイブへのリンクを貼った。

第1回(2000-2001)

http://web.archive.org/web/20041012062036/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_1.html

『学園モラトリアム』は、導入を読んだだけでお話の構造がすべてわかってしまうっていうのが、大難点だった。ネタバレ覚悟でお話を作るなら、せめて黒野博士と主人公の接触方法に、一工夫欲しかった。(でも、非常に好感がもてるお話の作りではあった。)
『オークションマニア1 黒服』は、古本屋業界の内幕等、地に足がついている処は面白い。だが、逆に、“お話”部分が、まったく地に足がついておらず、魅力がない。これ、どっちかにして欲しい。地に足がついていないお話を作るなら、お話に魅力を。地に足がついている処が魅力なら、地に足がついているお話を。
『マージナル・プラネット』は、大変達者な方だと思った。文章もこなれている、会話や遊び方も結構私は好き。けれど、設定が、致命的に変だ。HLAが水のある処へ移動しない理由がないし、こういう能力を持っている主人公が単独で旅行できる筈がない。SFで、世界を一つ作る以上、政治状況だけではなく、農業、貿易状況なんかも考えて欲しい。
『D.I.Speed!!』。お話の、文章、構成、キャラクターは、まあ、うまくできていると思う。けど、あげつらおうと思えば、できる処は多々ある。
 だが、それらをおいておいて、好きなものを描いている時の描写がとても生き生きしている。今回の佳作は、作品の完成度というよりも、“期待”の賞なのだ。“将来のあなた”に、期待している。
世界征服物語』。有体に言ってしまえば、これ、私にとって、一おしだった。けど、同時に、ちょっと……という作品でもあり……。
 センス、ストーリーテリングは、とてもいい。選考に残った人の中で、次回作を読みたいと思わせることに関しては、おそらくこの作者が一番だろう。
それでも私が「ちょっと……」と思ったのは、そして、今回、賞をとった以上、あえて苦言を呈するとすると……作者は、原稿、書き殴っていないか?
候補作中、誤字脱字の数は一番、ひとりよがり、読者を無視して勝手に作者だけが判っている文章も一番。
勿論、こういう欠点は、編集者や校閲者がついてくれれば直る。だが、その前に、推敲さえすれば、直る筈のものなのである。
作家というのは、他人が、お金を払ってまで読んでくれる文章を書く商売である。ならば、こういう文章を書いてはいけない。
つまり、あなたが問われているのは、“お金を払って読んでいただく文章を書く気構え”なのである。

第2回(2001-2002)

http://web.archive.org/web/20041012063233/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_2.html

 今回、私は、『銀盤カレイドスコープ』を大賞に推そうと思い、この選考会にのぞみました。(大賞を取ってくれて嬉しいです。)
 この作品は、“面白かった”。これに、尽きます。私は、仕事で、選考委員として、この原稿を読んでいる。にもかかわらず、『銀盤』は、読むのが楽しく、ページをめくりたくなった。ただ。たった一つ、問題をあげるならば。長い。全体的に、もうちょっと整理した方がより面白くなると思います。とはいえ、期待しておりますので、次回作でも楽しませてください。
 それから、佳作になった『地下鉄クイーン』。私は、構成にいささかの疑問を感じました。主要人物が、いつでも、作者にとって都合のいいタイミングで都合のいい位置にいる。ま、お話ってそういうものだって言えばそうなのですが、それも、あまりに度重なるとちょっと。また、主人公がカナリアを助けたいと思う動機が(特に最初のうちは)弱すぎる。まして、地下鉄クイーンが主人公に求めた代償はとんでもないものなのですから、もっと切実な動機がないと、構成的に辛いです。ですが、教会のシーンは綺麗で感動的でしたし、キャラクター造形も面白かった。
 『魔法使いのネット』。実はこのお話、文章は気持ちよく、キャラクターにも厭みはなく、すらすら読めて……うん、減点法では結構いい処へいく筈。にもかかわらず、何故、このお話が賞をとらなかったのかというと……気持ちのいいキャラクター、さくさく進むお話の展開、これ、ぜえんぶ、どこかで見たことがあるような気がするからです。つまり、すべてが非常に類型的なんです。(特にキャラクター。)
 新人賞というのは、“そつなくお話を作れる人”を求めているものではありません。どんな破綻やどんな弱点があっても、“新しい人”を求めているものです。そこの処を、この作者は、もう一回考えてみてください。

佳作

「地下鉄クイーン」(東佐紀)→『ネザーワールド カナリア

第3回(2002-2003)

http://web.archive.org/web/20040602231023/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_3.html

 今回は、大賞なしの佳作二つという結果になった。以下、選評である。
 まず、佳作の『殿がくる!』。これは、細かい欠点は多々あるものの、面白かった。読後感もよかったし、次にどうなるか、読んでいてわくわくさせられた。ただ……このお話の最大の魅力が、最大の欠点になっている。これ(織田信長が近未来にタイムスリップしてくる)は、信長におんぶにだっこのお話なのだ。このお話の魅力は、主に“織田信長”の魅力だし、変な処はすべて、「信長ならしょうがない」と思わせている。二作目以降において、信長以上に説得力があるキャラクターを、作者は造型できるのか?
 同じく佳作の『電波日和』。これは、文章もいいし、キャラクター造型もいい、読み終えた時、私は納得できた。だが……細かく見てゆくと、とっても変なのである。一番問題なのが、主人公と母親の関係。前半と最終局面で、あきらかに“母像”がぶれている。おかしい。それに。主人公は、学校内で友達がまったくいない、不良として描かれているんだけれど……どう読んでも、この主人公、いい奴だよ。主人公は、自分で自分のことを、「不良として徹底できない中途半端な奴」って規定しているけれど、この主人公は、まったく、中途半端じゃない。中途半端じゃなく、“いい奴”なんである。
 『山田飛鴻風雲録』。これは、作者と登場人物、そのすべてがじゃれあっているお話である。にもかかわらず、読後感が悪かった。「おまえの人生なんだから、やりたいことはやり放題やれ」っていう命題自体はいいと思うんだけれど、このつくり方だと、その後に、「どれだけ人に迷惑をかけたとしても、お金で片づけちゃえ」っていうのが、透けて見えてしまうから。しかも、こんな世界にもかかわらず、飛鴻がお祖父さんを嫌う理由を、この作者は書いてしまっている。それされると、一気にこのお話の虚構は崩れる。
 『学内果実を喰う奴ら』。処々……もの凄く、センスが、いい。だが。決定的なことに、これは、“お話”になっていないと思う。キャラクターの書き分けが全然できていないのに、章ごとに視点人物が変わり、しかもその人物の数が結構多くて、その区別がまったくつかない。かなり特殊な世界を設定しているにもかかわらず、世界設定を説明してくれないから、もう、何が何だか訳判らない。作者は、センスの前に、まず、“小説”を作って欲しい。

第4回(2003-2004)

http://web.archive.org/web/20070302093726/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_4.html

 今回は、かなりレベルが高かった。
大賞をとった、『戦う司書と恋する爆弾』は、世界設定がちゃんとできていて、しかもなかなか感動的。それに、“本”“爆弾男”“百年に一度の嵐に百年に一度の夕陽”っていう、ガジェットもとっても素敵。問題点としては、何故、シロンの本を、その辺のもぐりの本屋が持っていたのか判らない……なんてあるけれど、それは瑕疵に思える。(ただ。タイトルは、一考の余地あり。全体的に、ネーミングセンスがちょっと……。)
 同じく、大賞の、『その仮面をはずして』。これは、褒めている人が多いので、あえて苦言を。変な処が多すぎると思うの私。無式を厳密に考えると、真綾の能力の発動の仕方は、あまりに御都合主義的ではないか? 条件が同じで、超能力が発動したりしなかったりするし、その後の展開も、とても恣意的だ。また、ラスト、あんだけ破壊的なことをしておいて、この結末はないだろう。
 佳作になった、『Shadow&Light』。決め台詞がきっちりツボにはまって決まっているのに、登場人物の感情の流れにも素直についてゆけるのに、何故か、印象が薄い。これ、パワーバランスが悪いんじゃないかな。光輝が、強すぎるの。この作り方では、全然、ハラハラドキドキできない。
 『戦え!松竹梅高等学校漫画研究会』。手慣れているのは判るんだけれど、うまいんだけれど、それが全部、悪い方へ働いてしまった。それにあの……最低限のSF考証は、して欲しいものだ。
 『御用組』。もうちょっと、考えてくれえ。お話の作り方、主人公の捜査の仕方が、ゆきあたりばったりだっていう指摘があったんだけれど……その前に、悪役のやっていることが、そもそも、ゆきあたりばったりだ。こんなにゆきあたりばったりでは、ちゃんとした悪事なんかできない。
と、まあ、以上、今回の選評である。

大賞2

「その仮面をはずして」(岡崎裕信)→『滅びのヤマヤウェル その仮面をはずして』

第5回(2004-2005)

http://web.archive.org/web/20061006005953/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_5.html

『黄色い花の紅』は、「これが書きたい!」という作者の気持ちが、ストレートに伝わってきて、迫力と情熱で大賞をもぎとった。また、後半のヒロインの造形が、とてもよい。お人形でしかなかった彼女が、人間になってゆくあたり、ほんとに素敵。ただ、文章には非常に難がある。今後の精進に期待したい。
 一方、佳作の『Beurre・Noisette』は、文章とセンスがいい。とても楽しく読めた。ただ、主人公に、まったく説得力がない。裏切られた、苦しんだって、書いてあるだけなので(その上そういう人間には全然見えない描写なので)、お話全体が宙に浮いている感じになってしまっている。
『采目天仙大作戦!』は、手慣れている作りだし、実際うまいのだが、突出した処がないのが問題。構成にも、いくつか疑問がある。
『キセキ☆ラプソディ』は、私には評価のしようがなかった。これはプロローグでしかない。新人賞に応募する以上、ちゃんと完結しているお話でなくては困る。

佳作

『Beurre・Noisette』(藍上陸)→『Beurre・Noisette 世界一孤独なボクとキミ』

第6回(2005-2006)

http://web.archive.org/web/20071011034032/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_6.html

 大賞をとった『鉄球姫エミリー』は、登場人物全員の感情の流れが自然に納得でき、構成もめりはりが効いていて破綻がなく、見せ場もあり、なかなか感動的なお話だった。実際、今回の候補作の中では、実力的に頭一つ抜けていたと思う。これからもがんばってください。ただ、個人的な感想としては、頻発する下ネタ、魅力や個性というより、ただ邪魔なだけって気がするんだけど……。
 佳作の『警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび』。これ、私の点数は、低かったんだよね。それはひとえに、私にとって、チルビィが魅力的でなかったもんだから。可愛さの演出が、なんだかあざとい気がして。だが、読者が、チルビィを可愛いと思ってくれれば、それはそれでOKなのかな。ただ、今後は、“このチルビィをまったく可愛いと思えなかった人もいる”っていうのを念頭において、演出を考えて欲しい。
 同じく佳作の『ガン×スクール=パラダイス!』。とにかく主人公が前向きで努力するところがいい。私はこの作者をかなりかっている。だが、このお話には、やたら問題点があり(大体、お話自体のテーマとお話最大のイベントが矛盾している)、賞に推す気にはなれなかった。でも、まったく新たな設定の、この作者の次作を、読みたいと思う。
 賞からもれた『尽夜野怪奇スクラップ』は、実は、一番読みやすかった作品。文章の書き方、お話の作り方なんかはこなれていて、実際にプロになった場合、あるいはこの人が一番安定しているんじゃないかと思えるんだけど、その分、突出した魅力がない。キャラやエピソードが、“どこかで見たことがあるような……”って気分になってしまうのが、最大の難点。

佳作1

『警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび』(横山忠)

佳作2

「ガン×スクール=パラダイス!」(やまだゆうすけ→穂邑正裕)

第7回(2006-2007)

http://web.archive.org/web/20081228122311/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_7.html

 今回は大賞なし、佳作三編となった。順不同で、おのおのの作品について書く。
『反逆者 〜ウンメイノカエカタ〜』。
 私はこのお話、結構好き。丹念に、主人公の思いを追っていってくれるので、感情移入もできたし。ただ……初期設定、がんばりすぎ。
 人の死が見えてしまう能力って、そんなもんそもそも救済が不可能に近いと思う。それだけのハードルを設定して、それでも主人公の心が折れないよう、書き込むっていうのは……。
 あと、肩に力が入りすぎている。愛海がでてくる処は、なんかすらっと読めるのに、格闘シーンは、読むの辛い。これ多分、作者が肩肘をはっているせいだと思う。
 もうちょっと、力を抜いて、リラックスして。
   ☆
『超人間・岩村
 この人は、手慣れてる。演劇シーンあたりは本当に楽しめた。
 ただ、大問題なのは……主人公の岩村より、まわりの登場人物の方が魅力的なこと。(この書き方だと、一番かっこいいのが多村で、一番超人間なのはマルだ。)それに、あからさまに続編があること前提なのは、新人賞応募作として、どうなんだろう。作品である以上、完結していてほしい。
   ☆
『スイーツ!』
 私は女なので、冒頭から展開される思春期男子妄想は、正直言って、読むの結構辛かった。女の子には引かれるでしょう。ただこの人、書きっぷりがいいのよ。すっごく楽しんで書いている気分が伝わってくる。
 構成には無茶苦茶難があるんだけど、ま、いっかー。そのくらい、楽しい書きっぷりだった。
   ☆
 三人とも、がんばってください。

佳作3

『反逆者(トリズナー) 〜ウンメイノカエカタ〜』(弥生翔太)

第8回(2007-2008)

http://web.archive.org/web/20091209060555/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_8.html

 佳作が二作ということになった。
 まず、『逆理の魔女』。なかなかよく出来たお話だと思う。メインは三章と四章なんだけれど、一、二章が、いやみのない登場人物紹介になっている。しかも、主人公が、”ちゃんとした男の子”であり、”異常“に女の子に好かれていない!(応募作の大多数では、問答無用で男の子が女の子に好かれるのよ。これはもう、何とかして欲しい。)
 私は最高評価をつけた。だが……残念ながら、断固として大賞に推したいという程の、突出した魅力がなかった。
 『アンシーズ』。楽しく読んだのよ、私。クライマックス、盛り上がったし、ここまでは「大賞候補か?」って気分だった。だが。このお話の中で、アンシー達が戦う理由って、非常に大きな要素を占めている筈で、実際、何回かその話題がでかけ、その度に、何か事件が起きて……。ここまでひっぱるのだ、どんな理由があるのか、非常に期待していたのだけれど、作者は、それ、スルーしてしまったのだ。これはないだろう。期待が大きかった分、落胆も大きかった。
 以下、賞に入らなかった作品について。
 『物ッ凄い現実逃避』。うまい。するするっと読めて、楽しめるんだけど、いかんせん、私の頭の中に浮かんだ情景は、すべて、既製のゲームのもの。この人は、自分自身の世界を作れるのか?
 『たぬ化けっ!』。私は、この人の姿勢がかなり好き。だって、がんばっているんだよ、とても大きなテーマに真っ正面から取り組んでいて、この姿勢は非常に評価したい。
 だが、とにかくお話の整理が下手。その上、お話自体が矛盾続出。
 『ナイト=ゴーント』。もの凄く癖と毒がある文章で、好悪の情が別れるだろうなあ。ただ、お話の構成が、完全にゆきあたりばったりなのが、ひっかかった。その結果起きた矛盾は、看過するには大きすぎると思う。

佳作2

『逆理の魔女』(雪叙静→雪野静)

第9回(2008-2009)

http://web.archive.org/web/20101123041507/http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_9.html

 今回、大賞が二作、佳作が二作となった。以下に、選評を書く。
 まず、大賞の『うさパン!』。これはまあ、ある意味過不足がないお話であって、道中、私も、大賞候補かなって気分で読んでいた。ニーナの感情の動きは丁寧に描けているし、ラビッツに拾われてなじんでゆく処も納得、ラストは感動的でもある。ただ。最後の敵が、あんまりなのである。馬鹿すぎ、駄目すぎっ。緊張感が一気に崩れてしまった。
 ついで、『オワ・ランデ』。私以外の選考委員は、総じて高得点をつけた。みなさんの評価が高いのであんまり文句は言いたくはないのだが……この主人公、「オズのエッチ」と言われるような人ではないと思う。そう扱われているが、この主人公の言動は、女性からすると、ほぼ痴漢だよ。でも、ダッシュ文庫って、読者対象は、あくまで男の子だから。読者対象が男限定ならば、ありか、これ。
 佳作二編のうち一つ、『ライトノベルの神さま』。手慣れている。大変読みやすい。うまいけど……ここまで、“お約束”をひっぱって、それだけでお話を構築してしまうのは、どうなんだろう。
 そして、佳作の二つ目。『二年四組 暴走中!』。この人は、とてもちゃんとお話を作っている。三十五人登場人物がいるという、ほぼあり得ないお話を、“ハッカー”“機械女”みたいな、属性だけで書いて、ちゃんと書き分けができている。しかもその上、このお話の中では、誰が“何”なのか、特定ができる。この構成力を、私はとても評価したい。けれど、話を大きく作りすぎたのでは。もうちょっと身の丈にあったお話の方が楽しめたと思う。(それと。あなた、誤字が今回最多だ。しかも、名前を間違っている処もある。あなたの作品の場合、名前の間違いは絶対あってはいけないので、次からはもっと注意して書くように。)
 『妖し合い』。ある意味端正なミステリなんだよね、伏線もちゃんとしてあるし、その伏線に呼応する処もちゃんとある。でも、ミステリなら、もっと大きな謎が欲しかった。
 『兄貴が町にやってくる』。……これ……要するに、変な格好をした兄貴が、ポーズをとる。と、それだけのイメージで、書き出したお話なのではないのか? 最初にイメージやシーンがあるのはいいとして、それだけではお話として成立しない。

大賞2

「オワ・ランデ 〜夢魔の貴族は焦らし好き〜」(神秋昌史)→『オワ・ランデ! ヤレない貴族のオトシ方』

佳作2

「二年四組 暴走中!」(片山禾域→朝田雅康)→『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』

第10回(2009-2010)

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 今回は、大賞が二作、優秀賞、特別賞がでました。受賞者のみなさま、これはスタート地点ですので、只今ここから、がんばってください。
 まず、大賞の『覇道鋼鉄テッカイオー』。お話はよくできていると思います。キャラクターもなかなか。悪役に深みがあるのもOK。特に、主人公カップルが、お互いに思い合っているのだけれど事情があり、「その資格を手にいれるまで告白しない」っていう設定は、とても真摯でいい。ただ、難点は文章。読みにくいことこの上ない。これはもう、思いっきり推敲してください。
 同じく大賞の『くずばこに箒星』。読後感がいいです。仲間を大切に思うっていう、とってもベタな内容をベタに書いていてくれて、でもそれに好感が持てます。文章もいい。ただ……主人公の母親が、疑問。いくら事情があるにせよ、主人公をスポイルしてるの、どう考えてもこの母親だよ?
 優秀賞『サカサマホウショウジョ』。ヒロインの前向きさはいい。ヒーロー役の男の子は……評価がわかれるでしょう。ただ、二転三転するお話、意外と破綻なくまとまってます。それと、文章が不思議。神視点で時々読者にみえをきっちゃう文章って……味があると思うか、癖があって嫌だと思うか、これも評価がわかれるでしょう。
 特別賞『嘘つき天使は死にました!(嘘)』。私は、前半、まったく乗れなかった。女湯覗きや、先輩捕獲イベント、楽しめない上に書いている意味がまったく不明で。ただ、後半からラストにかけては、なかなか盛り上がってます。どうして最初っからこういう風に書いてくれなかったんだろう。
 それから、今回、賞をのがした二作品。
 『魔王な使い魔と魔法少女な正義部員』。読みやすかったです。ただ、ハルの登場シーンなんかは、非常に状況が掴みにくい。読んで意味が判る読みやすい文章をお願いします。あと、主人公、あまりにナイーブではないか? ここまでナイーブだと、読んでいて辛いです。
 『悪いことしましょ』。お話を書くスキルは、とてもある人だと思います。文章、テンポ、会話、いいです。章によって視点が変わるんだけれど、それで文章がぶれない、これはなかなか凄い技術。ただ……あまりにも、中味がありません。本を一冊読んでもらうんだもの、会話がよくて楽しめる、でもそれだけっていうのは……ちょっと、どうかと。

特別賞

「嘘つき天使は死にました!(嘘)」(葉巡明治)→『嘘つき天使は死にました!』

第11回(2010-2011)

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 今回大賞をとった『暗号少女が解読できない』、出だしのエピソードは、つかみとしてはとてもいいと思うし、何より、ヒロインがラストでは本当に可愛く思えた。応募作品のヒロインって、結構、「美人でスタイルがいい以外の魅力は何?」ってものが多いのだが、この子は、性格がめんどくさくても、キュンとくる可愛らしさがある。主人公の気持ちが段々ヒロインによってゆく描写も、納得。ただ、せっかく暗号の話なんだもの、中途二つの暗号、もうちょっと凝って欲しかった気もする。
 優秀賞の『Draglight/5つ星と7つ星』は、なんかこう、とにかく読ませてくれた。読み方によっては、もろに主人公の願望充足のみに特化しているお話なのに、不思議な程読後感がいやじゃない。文章はいい感じで、センスもいいと思う。ラストは、もうちょっと盛り上がって欲しい。(あと、登場人物の名前、わざとやってるにしても、あまりにも酷くないか?)
 特別賞の『終わる世界の物語』。主人公四人の友情物語として読むと、実はこれ、結構よくできた作品だと思う。決める処は決まっているし。ただ、決定的に、世界設定が変。戦争にリアリティなさすぎっていうか、この設定なら、主人公グループ、しょっぱなから死んでるだろうし、日本は滅びている筈。
 同じく特別賞の『君の勇者に俺はなる!』。とても読みやすい。作者も楽しんで書いている感じだし、読者も楽しく読める。けど、その分、「次はこうなるんだろうな」っていうのが透けてしまう。ヒロインの人間不信や、友達の病気も、世界に奥行きをだすんじゃなくて、単なるお約束になっている感じ。ただ、のびしろは感じられるので、この賞は、「あなたの将来に期待」という意味だと思って欲しい。
 『ハレルユニコーン』は、寄性虫って設定は面白かったんだけれど、結局、そいつらが何やりたいのか、力って何なんだか、まったく判らないのと、キャクラターに魅力が感じられなかった。

大賞

「暗号少女が解読できない」(新保静波)

優秀賞

「Draglight/5つ星と7つ星」(篠宜曜→下村智恵理)→『エンド・アステリズム なぜその機械と少年は彼女が不動で宇宙の中心であると考えたか』

特別賞1

「終わる世界の物語」(宇野涼平→涼野遊平)→『伊月の戦争 終わる世界の物語』

特別賞2

「君の勇者に俺はなる!」(永原十茂)→『God Bravers 君の勇者に俺はなる!』