「SF雑誌の中から新井素子さんの名前を見つけよう!」その5。

1980年の『SF宝石』(光文社)の巻。この雑誌は”ISAAC ASIMOV'S ACIENCE FICTION MAGAZINE”の日本版として1979年に創刊され、隔月刊で12冊を刊行し1981年に休刊した。今回調べたのはその内1979年8月号から1980年12月号までの9冊である。3冊に新井素子さんの名前が見つかった。
一冊目は1980年2月号。工藤厚のエッセイ「SFぶらり入門:原宿を歩くように辺境の惑星を闊歩する、鈴木いづみ」(P.231)の中に新井素子さんの名前が登場する。アメリカにおける女流SFの隆盛を見て、日本SF界ではどうか、という文脈で。

と、大上段に振りかぶれば、ボーダーライン上の作家として倉橋由美子戸川昌子(この二人は石川喬司が労作『SFの時代』で認知した数少ない女流作家です)、あるいはSFの申し子として栗本薫山尾悠子(休筆中の新井素子も加えたい)、さらにマンガ界から萩尾望都竹宮恵子(もう一人、高野文子という新人にも期待)、といった錚々たる顔ぶれにご挨拶しておかねばなるまい。だが、彼女たちをひとまず措いても(失礼!)、ぜひ採り上げておきたい女性がいる。異色SFの星こと鈴木いづみである。

休筆中というのは実情とちょっと違う。新井素子さんは1978年途中から大学受験のために休筆していたが、その後小説を書くことができないスランプ状態を経て(単行本版『グリーン・レクイエム』のあとがきを参照)、『奇想天外』1980年2月号に「宇宙魚顛末記」を発表した。従って、このエッセイが掲載された時、すでに新井素子さんの休筆期間は終わっていた、という訳。
二冊目は1980年10月号。書評ページ「さて、何から読もうか」の伊藤昭による『ダーティペアの大冒険』評(P.299)より。

仕方がないので、本編が傑作であるという前提の下に、いくつか気が付いたことを列挙しておく――(1)ケイ(ボーイッシュなほう)とユリ(お人形みたいなほう)では、ユリのほうが儲け役。あんまりしゃべらないほうがモテるわけね。(2)軽快なテンポの下に作者の血への偏執が隠されている。ブラッディカードはほんとに切れそうだ。(3)ナウな文体の創造。少女漫画家や新井素子らの少女文体(原文傍点)と言うべきスタイルは、皮肉にも男性作家の手によって完成されたのかもしれない。(昭)

何をもって「完成」と言うのか? 疑問である。
三冊目は1980年12月号。「TALKING CAPSULE」に新井素子さんによるエッセイ「『いつか猫になる日まで』創作秘話 石神井公園はあたしの高校時代の通学路でした」(P.12)と写真(ノー眼鏡)を掲載。これを紹介するミーハー調な文章(P.11-12)が気持ち悪い。

お次は、新井素子しゃんの、おしゃべり、ちょい。わしら一同、このひとのファンなんや、好きやー。どう見たって、二十歳に見えないところがね、泣かせる。

他に書評ページ「さて、何から読もうか」に伊藤昭による『いつか猫になる日まで』評が掲載されている。

昨年の冬、新井素子氏とお会いしたときの一問一答。
私「どうも初めまして。『宇宙魚顛末記』読ましていただきました。あの、主人公が原稿をボツにして鬱になるところがおもしろかったんだけど、あーいうことあるんですか?」
新井「えーっ(と、両の拳で口を覆い)、ありますう。今度のも、始めと終わりはできてたんですけど、真ん中がなかなか埋まらなくて」
私「そういう日常生活っていうのか、あなたがふだん経験している部分と、突然キティっていう悪魔が出てくるSF的部分とは、ご自分の中ではどうつながってるんですか?」
新井「えーっ。あの自然に……」
私「これ、全然関係ないんですけど、純粋な恋愛小説なんか書く気ありませんか?」
新井「えーっ。でも、あの、あたし、夢のある話のほうが好きなんですぅ」
どうも質問するたびに驚かれていたような気もするが、実に素直でチャーミングなお嬢さん、という印象が残った。本書の読後感もまた同じように爽やか。その不思議な題名の由来が明かされるとき、私たちは作者が”夢”に託す厚い思いの丈を知るだろう。(昭)

S-Fマガジン』と『SFアドベンチャー』の作品評は10月号に載った。『SF宝石』で12月号掲載となったのは隔月刊だからか。作者の人となりから話を始めなければならないのは世代が違う評者に共通した行為である。新井素子作品を受け入れる回路をまず頭の中に造らなければならないのだ。だからそうする必要もなかった読者としては、ご自分の中ではどうつながってるんですか?、という愚問も微笑ましくさえ感じられる。”読後感が爽やか”とは俺個人としては納得しがたいが、こういう感想は一般的なのだろうか。
以上の情報は既に素研に掲載済み(→素研:『SF宝石』1980年2月号10月号12月号)。『SF宝石』の残り4冊はまた後で見る。
次は『奇想天外』の1979年後半から1980年を調査する予定。1980年の分は既に連載対談の情報を素研に掲載してあるのだが、他の木島ではチェックしていないのである。もっと細かく調べてみる。