山科千晶『エンジェル・ウィスパー』。

読了。bk1にて購入。感情の動きが鈍くなっている時期に読んでしまったため、読み終わった後に感興をあまり催さなかったのはこちら側の失敗である。それでも物語自体には飽きることなく読み進むことができたのは、この作品の物語作りの巧みさを証することになるだろうか。
新井素子さんは推薦文で「とても愛しい”家族物語”」と書いた。読み終わってこのダブルコーテーションが曲者だったと思った。最初はバラバラになった家族の再生物語が型どおりに描かれるのかと思っていたのだ。物語は心身共に離散した家族を持つ主人公が、ある事件を通して家族の絆を再確認する過程を描く。しかし家族が再び一つになることはないのだ。その状況を主人公が受け入れ、許容し、そして少し成長する処が読後に一服の清涼感を生じさせる。家族のあり方に苦悩する主人公と、更に作中で描かれた様々な家族とその有り様が今という時代における家族のあり方の一面を確かなリアリティとともに読者に対して突きつけてくるという意味で、まさにこの話は”家族物語”と言えるのだと思う。
予想をいい意味で裏切られた作品である。