夢枕獏『シナン』上・下。

読了。図書館で借りてきた本。オスマン・トルコのスレイマン大帝に仕え、セリミエ・ジャーミーという世界史上に残る巨大なモスクの建築を成し遂げた偉大なる建築家、ミマール・コジャ・シナンの物語である。著者がメインテーマとする、「神」という存在を小説でどう表現するか、若しくは一個人がどのように「世界」を手に入れるか、を描く物語の系譜に連なる作品である。
読んでいる最中は、描かれている歴史模様に深みが無くどうにも付け焼き刃だと思ったり、歴史と人物描写の絡みに物足りなさを感じたりもしたのである。しかし、第19章を読み終わり、ある予感と共に終章を読み始めたらば、シナンの過去の日々が怒濤の如く蘇り現在と融合する展開にはらはらと涙がこぼれるのであった。いい話だった。作者が八年かかった旅を俺は三日で踏破したのだった。なんという贅沢。
次の物語も期待するのである。