夏樹静子『腰痛放浪記 椅子がこわい』。

読了。『素子の読書あらかると』文庫版を読み返した折りに興味を惹かれたので読んでみた。単行本版を読んだ時には特に気にとめなかった本だが、文庫版が発売されるまでの年月に椎間板ヘルニアを発症し腰痛に悩まされるようになったという境遇の変化が手に取らせたのである。もちろん何らかの参考になればこれ幸いという下心がありありである。結果的にその期待だけは裏切られたのだが、この本の面白さは予想以上であった。著者が原因不明の腰痛に悩まされるようになり、様々な治療を経て最適な治療法と巡り逢い治癒するまでの克明な記録は他人の不幸を笑うようで申し訳ないが真に迫って途中で飽きることがない。一気に読み終わってしまった。俺の腰痛にはあまり参考にはならなかったけれども、病状に悩んでいる様子にはとても共感を覚えた。出口の見えない迷路に迷い込んでしまったのではないかと様々な病気で精神的な不安を抱えている人に多少の希望と勇気を与えてくれる内容ではあると思う。
ちなみに、本のタイトルが『素子の読書あらかると』と違っているのは、紹介されていた文春文庫版でなく後から出た新潮文庫版だからである。amazonで検索したらこちらの方が30円安かったのである。ちと新井素子道から外れた行いだったかも知れない。

夏樹静子の本を読んだのは初めてである。氏が戦争中に疎開していた静岡県川根町に「夏樹文庫」が作られていることを本文中の記述で知った。川根町というのは、ヤマハスタジアムのピッチサイドに看板が出ていた「川根温泉」のある町である。ここからそんなに遠くもないので、機会があったら行ってみよう。