岬兄悟『風にブギ』。

〈ラヴ・ペア・シリーズ〉を読んだついでに未読だったこの本も読んでみた。俺が読んだのは文庫本だが、元々は新井素子さんの『・・・・・絶句』と同じく早川書房の《新鋭書き下ろしSFノヴェルズ》として出版された本である。
ネバーランド・パーティ』に収録された高橋留美子との対談で新井素子さんが下記のように仰っている。『・・・・・絶句』を執筆中に夢枕獏から電話があり、原稿用紙の前半分を編集者に渡したら新井素子さんの原稿と一字一句同じではないかと言われたという怖い夢を見た、と言う。内容を確認し合ってこれなら同じってことはないと電話を切った後。

その二日後、岬兄悟さんの本が出たのでパラッと見たら、最初の五ページくらいの内容が、私のと同じだったんです。青くなって岬さんに「あの話この後どうなるんですか」って電話した。そしたら同じ設定は、そこだけだったとわかったんですけど。

この岬兄悟さんの本というのが『風にブギ』のことだと思われる。主人公が小説を執筆中/しかしはかどらない/何気なく時計を見る、などの共通点が認められる。「関連文献リスト」に追加しておこう。
で、読んでみた訳だが。
これってSFじゃないんでないの。交互に展開される二つの世界の片方は異世界で、描写だけ見れば確かにSF的なのだが、その異世界が現実世界を浸食する描写がないためあくまでも主人公が書いている小説中の世界としての位置付けしか与えられていない。おかしいな。どこか読み落としたかな。
「文庫版あとがき」に次のような一文がある。

通のSFファンからはあまりホメられず、SFファンじゃない読者からはけっこうホメられたりしました。(ま、ぼくの作品はだいたいそうなんだけどね)

まあ《新鋭書き下ろしSFノヴェルズ》から出ているにも拘わらずこの内容ではそりゃあSFファンはホメないんじゃないかな。つまらなくはないけど、再び原理主義者風の嫌な言い方をすれば「これはSFではない」。
うーん、おかしいな。俺が読み落としているだけのような気がして仕方がない。気が向いたら読み返してみよう。