渡辺弘之『土壌動物の世界』。

読了。図書館で借りた。新井素子さんの著書『二分割幽霊綺譚』の本文中に名前が出てきた本である。その情報は素研に関連文献として既に掲載済みであったが、その改訂版が近隣の図書館に置いてあったので読んでみた。全く関心を持ったことがない分野だが、却って新鮮な驚きに満ちていて面白かった。私らの足下に拡がる世界はセンス・オブ・ワンダーの固まりである。特にミミズはあなどれない。
二分割幽霊綺譚』の本文中にも登場したモグラの学名に関する部分を抜き書きしてみよう。P.68より。

日本での土壌動物のひとつとしての哺乳類は、モグラヒミズ、トガリネズミ、ネズミ類である。日本には六種のモグラがいるが、主なものはアズマモグラ(Mogera wogura)とコウベモグラ(M. kobeae)である。アズマモグラは東日本に、コウベモグラは西日本にいて、その分布境界は伊豆と新潟を結ぶ線であるとされている。しかし、アズマモグラは中国、四国、近畿の山地にも生息しているので、もともと日本にいたアズマモグラを、あとから大陸方面から移動してきたコウベモグラが駆逐し、おき代わっているものと考えられている。
なお、アズマモグラの学名がモゲラ・ウォグラとなっているのは、シーボルトがヨーロッパに送った日本のモグラを、テミンク(Temmink)が記載したとき、モグラ(mogura)という日本名を読みちがえて、ウォグラ(wogura)としてしまったこと。さらに、日本のモグラに新しい属がつくられたとき、属名のwをmになおしたのはよかったが、今度はモグラ(mogura)のuをeとまちがえてしまい、モグラモグラのはずが、モゲラ・ウォグラ(Mogera wogura)になってしまったということである。つづりがまちがっていても、勝手にかえることはできないのである。

モグラのモゲラ氏とウォグラ氏の名前の由来がこの学名なのは本文中の記述から明らかである(文庫版P.294)。とするともう一人の「キォトラ」というのは何だろう。ググっても新井素子関連ページが見つかるだけで、その他の情報はない。