『窓のあちら側』読了。

「大きなくすの木の下で」を初めて読んだ時にも思ったのだが、

所詮、高校生のスーパーマンは、高校生にとってのスーパーマンでしかない。美術、音楽、文学、あらゆる芸術関係に抜きんでてみえた洋介は、”高校生としては抜きんでていた”にすぎなかった。実際、今の洋介は、”出世の見込みもない薄給のサラリーマンのくせに、なまじ趣味が多いのでお金がかかってしょうがない”としか、恭子には思えない。

この件がぐっさりと胸に突き刺さるのである。「美術、芸術、文学」を「プロレス、アイドル、SF」に換えるとそれはサラリーマンだった頃の俺である。確かに「なまじ趣味が多いので」お金はいつもなかったんである。まあ今はもっと恥ずべき境遇なので逆に客観視できるとは言うものの相変わらず心穏やかならぬ描写なのであった。
あとがきについて。
短編集に入れるのを拒否していた二作を今回収録した理由が語られているかと期待していたのでそれがなかったのは残念だった。『まるまる新井素子』で語られたあの経緯も既に忘却の彼方であるか。
そんで、これは極めて個人的な感慨だが、未収録作について述べた箇所で、

それを、日下三蔵さんが全部リストにしてくださって……どうもありがとうございました。何年のなんという雑誌に載ったのか、本人が覚えていなかったので、日下さんのリストがなければ、多分みつからなかったと思います。

「なければ」……「そのための素研です」という台詞が思わず口から出そうになる訳ですよ。いやそういうリストはここにもあるのになあ、と僻みっぽく思った後、そんな感情を抱いてしまった自分自身が情けなくなったというお話。新井素子さんに認知されていないのならばまあそれは仕方がない。
あと、事実誤認を指摘しておくと、「影絵の街にて」に触れた処で、

過去、まんがになったことがあり、まんが作品として本となり、この間は文庫になったんですよね。

とあるのは多分「週に一度のお食事を」(森脇真末味・画)*1と混同しているのではないかと思われる。「影絵の街にて」は確かに一度漫画化されているが*2、単行本には収録されていない筈。未収録短篇を初収録した本を出した勢いでもって、新井素子原作全漫画収録単行本など出してくれれば嬉しい限りなのだがどこかの出版社でやりませんか?
新井素子著作リスト」について。
見やすいし分類も判りやすいしすごくよくできている。が、欲を言えばその本が今現在書店で手に入るかどうかを明確にして欲しかった。例えば絶版や版元品切れの作品には★印をつけるとかすれば新しいファンの人や今から買い直したいという人に対しては親切だよね。★ばっかりになっちゃうんでは、という突っ込みには「現実を直視しろ」と清水大敬チックに説教しておきたい。
さらに細かい突っ込み。『ひでおと素子の愛の交換日記』(1・2・3・4)と『もとちゃんの夢日記』は「角川書店」でなく「角川文庫」が正しい。二版以降は修正の必要ありですよ。