放課後の校庭を走る君がいた。

歯科→心療内科と医者の梯子をしている最中、カーラジオから村下孝蔵の『初恋』が流れてきた。この歌が流行ったのは俺が中二か中三の頃だったと思う。男女交際など滅多にない清く正しい田舎の中学生も恋に恋するお年頃、当然好きな人の一人や二人はいた訳で、しかし暗く秘かに片思いしているのが関の山だった。初恋の甘酸っぱい切なさを歌い上げた歌詞に胸をかき乱されて悶々とした男子生徒は多かろうと思うのだが当然のように俺もこの歌に嵌り込んでいたものである。今聞いても胸をキュンと締め付けられるような懐かしさとともに、取り返しのつかないことをしてしまった苦い痛みが甦る。もう一度人生をやり直すことができるなら、あの日のあの時間に帰りたい。