4月24日回顧。

4月24日、上京して吾妻ひでお新井素子が出演したイベント「ひでおと素子の愛のトークイベント」を見た。明治大学博物館と米沢嘉博記念図書館では現在「吾妻ひでお展」が開催されており、その一環として行われたイベントである。その昔、角川書店の月刊誌『バラエティ』「ひでおと素子の愛の交換日記」を連載していたコンビによる久しぶりのセッションということで注目度も高く、近年は『失踪日記』で注目を集めた吾妻ひでおがこういう場に登場するのは非常に珍しいということで、会場には多くの聴衆が詰めかけた。
以下、当日の俺がどんな様子だったのかをメモしておく。時間順にだらだらと書く。

05:30

起床。米沢嘉博記念図書館の「吾妻ひでおマニアックス4」と明治大学博物館の「吾妻ひでお美少女実験室」、そして「ひでおと素子の愛のトークイベント」を見るために上京するのである。金がないので当初は鈍行に乗る予定だったが、「愛のトークイベント」の整理券配布が10:00からだというので、それなら間に合うように新幹線で行かねばなるまい、と決心しての早起き。懐が痛いが仕方がない。一人で朝食を摂り車で最寄り駅へ、東海道線の列車に乗る。

07:42

静岡駅で新幹線ひかり号東京行きに乗り換え。明治大学には09:00到着予定。整理券を取り損ねることがあってはいけないとかなり余裕を見た。定員200人なのでまさかとは思うが用心するに越したことはない。素研の友人とは09:30に御茶ノ水駅改札前で待ち合わせたが、もし整理券待ちの人が溢れかえるような事態になったら先に並んでおいた方がいいだろうと。こういう時に携帯電話を持っていると便利だな、と思う。こないだ買ったばかりなのである。車中で早速jigtwiを使ってtwitterにアクセスし適当なことをつぶやく。新幹線超速い。見る見る内に窓外の風景が変わる。富士山が綺麗。新横浜のバビルの塔を久しぶりに見た。

09:00頃

明治大学アカデミーコモン前到着。入り口付近には誰も人はいないがガラス張りの壁を通して中を見るとそれらしき人が3人ほどいる。この様子なら心配はいらないなと緊張を鎮めるために周囲を散歩することにした。折しも選挙の真っ最中、近くにも投票所がありポスターを貼った看板がでかでかと目に飛び込んでくる。細い道ばかりを選んでうねうねと歩く。楽しい。明大に戻ったのは09:10過ぎ。10人弱が建物脇に並んでいたので先頭の人に訊けば果たして整理券待ちの行列であった。まだ余裕だな、と待ち合わせ場所に向かうことにする。駅前のスクランブル交差点で某N氏とすれ違う。大阪から先乗りしていたらしい。いつもながらすごい行動力だ。

09:30頃

御茶ノ水駅明大側出口改札付近で友人と合流。4人いる新井素子研究会創立会員の内の1人。新井素子関連イベントに一緒に参加するのは初めてだが、当時の『バラエティ』愛読者であり「ひでおと素子の愛の交換日記」で投稿が採用されたこともある人なのでたまにはどうだろうと誘ってみた。今年の1月にも会っているのでお久しぶりという感じでもない。そのまま明大へ移動、列に並んでいるN氏の後ろにはまだ誰もおらずそのまま合流。友人とN氏は初対面。程なくまだ10:00前なのに整理券の配布が始まった。予想よりも並ぶ人が少なかったせいか知らん。ゲットした整理券の番号は016。星飛雄馬の背番号である。その場にいたのは30人弱くらいだっただろうか。15:00に会場の前に集合してください、とのこと。解散となったので3人で校舎前広場の椅子に腰掛けてだべる。N氏よりまたも結構なものを頂いてしまう。いつもお世話になっております。ちなみに整理券はこの後も「吾妻ひでお美少女実験室」の受付で配布されていたらしい。

10:00

博物館地下1Fの特別展示室へ3人で移動。「吾妻ひでお美少女実験室」を見る。受付には「吾妻ひでおマニアックス」でも見かけた後輩がまたいた。産直アズママガジン増刊「ふらふらひでお絵日記」を記念に買う。1000円也。展示は充実。現在のマンガ・アニメカルチャーに与えた影響をテーマ別に掘り下げる、という試みで、吾妻の原画とそれに関連性を見出せるマンガやアニメの原画やグッズが比較対照して展示されていた。これが全部明治大学にある、というのがすごい。「逆襲のラナオン」が超懐かしかった。しかし解説文中の「伝説巨神イデオン」が全て「伝説巨人イデオン」になっていたのがあれれという感じ。『文藝別冊 吾妻ひでお』に掲載された萩尾望都との合作マンガ「愛のネリマ・サルマタケ・ゾーン」の原画も展示されており、戦きながら食い入るように眺めていたらおでこをガラスにぶつけた。すいません。ペンタッチの違いは全然判らないので、ふきだしの文字の筆跡の違いでどちらがどのコマを描いたんだろうとか思いを馳せた。展示されていた書きおろしイラストの描画過程を収録したビデオのBGMはPerfumeで、編集で追加したのかなと思っていたが映像のカットと共に音楽も一緒に飛ぶ。ああ実際に仕事場でこれが流れてるんだと感動する。こういう60代に俺もなりたい。素研の友人は別のイベントへ行くためここで一旦お別れ。間に合わないかも、とのことだが終了後には飯でも食おうと約束する。見終わって受付で「伝説巨人イデオン」の件を後輩に伝える。タイトなスケジュールで搬入されたため細かい確認などできなかったらしい。しかしかなり興味深い展示だった。

11:00頃?

N氏とどこかで飯食うか茶飲むかしますか、ということでN氏の案内でさぼうるへ入ろうとしたら日曜定休。土地勘がなく神保町をうろうろ彷徨って結局三省堂書店2F「カフェ・コンフォート」へ。飯は後にしようかと思っていたがメニューを見たらカレーが食べたくなった。しばし歓談。最近の書店事情について、など。

13:00頃

N氏と別れ米沢嘉博記念図書館へ「吾妻ひでおマニアックス4:吾妻ひでお 日記と自伝」を見に行く。1〜4まで全て見る、というささやかな野望を達成する。前3回は開館直後に入場したこともあってお客さんの姿があまりなかったが、さすがに今日は俺の他に5、6人いてあまり広くない展示室は盛況である。新井素子関連で「ひでおと素子の愛の交換日記」の「私の交友録」*1の原画と「のた魚物語」*2新井素子直筆シナリオのコピーと吾妻ひでおの原画が展示されていた。「マニアックス3」で「ひでおと素子の愛の交換日記」の原画が展示されており、もう新井素子関連展示はないかと思っていたので望外の喜び。ちなみにシナリオはコクヨの20×20横書き原稿用紙を縦に使って書いてあった。ワープロの本格導入はまだだったらしい。『へろ』など他の展示も再びじっくりと眺め倒す。うーん眼福である。

13:30頃

米沢図書館を出てふらりと後楽園へ。20代の頃はプロレスを見るために後楽園ホールに通っていたので懐旧の念に駆られて行ってみたくなったのである。水道橋駅東口の方から横断歩道を渡ればずいぶん様子が変わっていた。あの頃は園内を再開発中だったことを思い出す。通路上もベンチもテーブルもたくさんの人で賑わっている。こんなに人が集まるスポットだったっけ? 学生時代にバイトしてた飲食店の前を通り周囲の相変わらずぶりにニヤニヤする。山下書店東京ドーム店を覗いてみれば格闘技人気が下火になった影響かその種の品揃えはめっきり減っていた。特殊本屋なのでまさか新井素子さんの著書はないでしょうと店内を散策したら角川文庫コーナーに2008年に出版された『ひでおと素子の愛の交換日記』新装版が!*3 既に持っているがこれも奇縁と購入する。DAICON7では発売された直後のその本に新井素子さんのサインをもらって大層うれしかった。今日はお二人のサインを頂く機会がないものか、などと虫のいいことを考える。整列時間が迫ってきたので明大方面へ移動。途中、新日本プロレスの闘魂ショップと東京三世社の前を通った。男坂を登ろうとしたら体育会の人たちがトレーニングに使っていたので、その近くにある女坂を登った。

14:50頃

アカデミーコモン入り口で前から何やら見た顔が。先程とは別の後輩だった。そう言えば、こやつらはつるんでいるのだ。会ったのは大学卒業以来約25年振りか。エレベータ乗り場付近で係員に準備が整っていないので待てと言われたので後輩とだべる。色々な意味で変わってねえ。参加者が既に大勢集まっているがN氏はまだ来ない。しばらくしてOKが出たのでエレベータで9Fへ。最初は整理番号50番まで。前後の人と番号を確認しながら教室前に並ぶ。

15:10頃?

入場が始まった頃ようやくN氏が到着。湯島天神神田明神へ行ってきたらしい。番号が早いので席は選びたい放題だが前の2列は関係者席として確保されていた。右側の前から4列目に陣取る。机も椅子も固定式で狭い。しかし施設は新しく各席に電源とLANポートが付いてる。すげー。黒板には大きく新井素子吾妻ひでおの名前が書いてあって、日直か、という感じ。スクリーンに新井素子著『通りすがりのレイディ』の帯付き書影が映し出されていたのは何故だろう。担当者の趣味だろうか。机上に配布されていたA3のプリント(年譜・接点を一覧表にまとめて書いてある)を見ながら、あーこんなのもあったねーなどと予習と復習をする。席は前からどんどん埋まって行き、後ろから空席目当てに流れてきた人が関係者席の張り紙を見てがっかりして戻る、という光景を何度も見た。時間前にほぼ空席がなくなる程の大盛況。関係者席も満杯。誰が誰なのかいちいち聴いて回りたい衝動に襲われた。これだけ人が入っているのにシーンとしていて異様な緊張感に満ちている。会場が大学内だけに入試や期末考査を思い出して懐かしくも息苦しい気分になる。

16:00頃

吾妻ひでお新井素子両氏が入場。壇上向かって右から司会者(彩古という方らしい*4)、新井素子吾妻ひでお、という並び。吾妻の背後にスクリーンが設置されており、話の内容に関連した作品が映し出された。話された内容についてはこの辺りを参考に。

新井素子の発言では、『奇想天外』の小口記者が撮る写真は何故かピンボケになる、とか、吾妻ひでおと小口記者の打合せに付いて行ったことがあるが二人とも全然しゃべらなくて驚いた、とか*5、「愛の交換日記」の中で嫌いなナメクジとよく共演させられた、とか、自分の書いたものが載ってる雑誌は大抵読まないが「愛の交換日記」は吾妻ひでおがどういうものを書くのか楽しみで読んでいた、とか、知っている話が多かったが生で聞くのはまた趣が違って大変よかった。新井素子が振った話題に吾妻ひでおがぼそっとひと言答えて笑いをとる、というやりとりも可笑しく、生「愛の交換日記」は大変楽しゅうございました。途中で『グリーン・レクイエム』に言及した時にスクリーンに映し出されたのが講談社英語文庫版の文月今日子の表紙だったんだが、なぜわざわざ英語版? あれも担当者の趣味だったんだろうか。最後の質疑応答で質問した時、極度の緊張のためお礼を言うのを忘れるなど失礼な態度を取ってしまいああまた昨年のサイン会の時と同じだと激しい後悔に襲われたが後の祭り。駄目駄目。ことほどさように周りを見回す余裕がなかったのでどのような人たちが来ていたのかはよく判らず、質疑応答ではセーラー服少女が質問をしたらしいがそれも見てなかった。吾妻ひでおへのJKウォッチングに関するその質問と回答で会場は大爆笑。あれは冴えてたねえ。終了時間はほぼ予定どおり。席を立って後ろを見たら素研の友人が来ていた。間に合ったらしい。よかった。N氏が高橋征義氏と話していたので便乗してご挨拶をさせて頂く。ここでも緊張した。
twitterでの覚え書き。





(5月8日追記)
司会者に新井素子の小説で好きな作品は、と訊かれた吾妻ひでおが挙げたのが「チューリップさん物語」。「初期のフレドリック・ブラウンみたいでよかったです」て言っていた。この上ない賛辞だな、と思った。

17:30頃

教室を出て、俺が新幹線で帰るのでじゃあ東京駅で飯でも食いながら話しますか、ということになり御茶ノ水駅から中央線で移動。しかしいざ着いてみると駅の構内は食事する場所が少なくしかもちょうど夕飯時でどこも混雑している。しばらくうろついたが適当な処が見つからず、妥協してお高いチャーハンの店に入った。食べながら感想を言い合う。素研メンバー二人は司会進行の拙さや音響の不備に対して縷々文句を言ったが、しかしそれにしても楽しかった、というのは共通の認識であった。久しぶりに大学時代を思い出したとかあんな資料を抱える明大うらやましいとかそのために明大受けようと思う受験生は絶対いるよねとか四方山話に花が咲いたが長居するのもはばかられる雰囲気だったし電車の時間も気になったのでお開きに。新幹線改札前で二人と別れる。お付き合いいただきありがとうございました。

19:00頃

ホームの階段を上がったら、体格のいい背広姿の男性集団が歩いてくるのにいきなり遭遇。どっかのプロスポーツチームかなと思いながらすれ違った一人の顔に激しく既視感が。「あれ? 今の藤田義明じゃね?」。確認しようと思った時には既にいなかったが、嵐のような期待に襲われて周囲を見たらやはり見覚えのある顔が歩いている。金マネージャーであった。間違いない、ジュビロ磐田ご一行様である。今日は新潟で試合だったんだが、ちょうど同じ新幹線に乗る処らしい。こんなに近くで主力選手を見るのはめったにないので、え? え? え? と幸運な偶然にいささか混乱していると前からなんと加賀が歩いてきた! すかさず「加賀選手、握手してください!」と手を差し出し握手してもらう。無上の嬉しさにポーッとなるも、いやしかし帰宅してからのお楽しみで試合の結果を遮断していたので勝ったか負けたか知らないしもし負けていたりしたらここで握手を求めるのは選手の傷口に塩をすり込むことになるんじゃないか、とか自責の念が頭をかすめたが今度は那須を見かけたのでとんで行って握手してもらった。頬の上気したおっさんにニコニコ顔で握手を求められて加賀も那須もさぞ気持ち悪かったことであろう。あまりに興奮したので試合の勝利を今更ながらに祈念しつつ早速携帯からtwitterに喜びを叩きつける。西へ向かう新幹線こだま号の車中では『ひでおと素子の愛の交換日記』新装版を読んで今日の感激を反芻したのであった。

22:30頃

帰宅。余韻に浸りつつ酒を飲みながらアルビレックス新潟vsジュビロ磐田戦の録画を見る。先制されたがジウシーニョの同点ゴールで辛くも追いつき結果は1-1の引き分け。勝てなかったのは残念で仕方がないがとりあえず負けてなくてよかった、と胸をなで下ろす。アウェイだし次善な結果ではある。

24:30頃

twitterの「ひでおと素子の愛のトークイベント」関連ツイートをトゥギャる作業を始めたはいいが、思ったよりもたくさんの方がつぶやいていてえらい手間がかる。途中で気持ちが折れそうになった。「家に帰ってトゥギャるまでが愛のトークイベント、そう思っていた時期が俺にもありました」という感じ。しかし挫けずがんばって26:50:27にようやく完成した。

これでようやく一段落付いた。まだ全然興奮が治まらず気分は高揚しっぱなしたが、翌日は仕事なのでとにかく寝なければとベットに入った。誠に希有な一日であった。幸せな気分のまま眠りについた。

*1:初出:『バラエティ』1983年2月号/収録:『ひでおと素子の愛の交換日記』、『ひでおと素子の愛の交換日記(文庫版)

*2:初出:『バラエティ』1983年4月号/収録:『ひでおと素子の愛の交換日記3

*3:たぶん世界で一番あとがきが多い本。収録されているのは、単行本版あとがき(新井素子)/文庫版あとがき(新井素子)/解説(秋山協一郎)/21年ぶりのあとがき(吾妻ひでお)/復刻版あとがき(新井素子)。これより多い本はあるだろうか。

*4:吾妻ひでおファンクラブの人。「吾妻ひでおマニアックス」の展示の一部やここで配布されたプリントの年譜を作成した。

*5:編集者は普通もっとしゃべりますよね、話さない編集者は珍しい、という話で、最前列にいた小口記者談「編集に向いてないんです」。