獅子宮敏彦『砂楼に登りし者たち』。

「週刊ブックレビュー」で新井素子さんが紹介していた本の内の一冊。図書館にあったので借りてきた。奥付を見ると今年の4月に出たばかりである。東京創元社の「ミステリ・フロンティア」という叢書から出版されており、作者としては初めての本であるらしい。
内容は、室町幕府崩壊から戦国時代へと移り変わる時代の中で、歴史上に名を馳せた、また名を馳せることになる登場人物たちの身近に起こった奇っ怪な事件を、伝説の老医師が推理し解決していくという連作ミステリである。俺はミステリはほとんど読まないので、この小説がミステリとしてどうか、という評価はできない。しかし、そのような変事を起こしてまで歴史に浮かび上がろうとする人々の姿とそれすらも飲み込んでしまう歴史の大河の重たく黒い流れを物語が浮かび上がらせる時、人の世の妄執の儚さというものに思い至らざるを得なかった。読み終わった後じわじわと心に染みた物語である。なかなか面白かった。