ジェフ・ヌーン『未来少女アリス』。

森岡浩之強化月間とか言いながらこんな本を読んでいた。ジェフ・ヌーンはたまたま読んだ『ヴァート』と『花粉戦争』が面白かったのでこの本も買ったのだが、去年出た本をなぜ今読んでいるのかと言えば、それは『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を俺がまともに読んだことがなかったためである。『未来少女アリス』はその続編という設定で展開する物語なのである。このタイミングで新井素子関連資料としてちょうど二作を読み終わったので、その熱が冷めないうちに取り組んでみた次第。
不思議の国、鏡の国に続いて今度はアリスが未来の国(といっても1998年)に迷い込んでしまうというお話。これがまたよくできている。話の展開の奇抜さと頻出する言葉遊びはまんまルイス・キャロルを彷彿とさせる。訳者の労力を考えると脱帽ものである。言葉遊びが本家よりやや下品な感じがするのは意図した結果なのだろうか。いや、それに不満はなくむしろその方が『ヴァート』の作者としては納得が行くのだが、訳者が原文をどう処理したのか気になったもので。他にもチェシャ猫が思いもよらぬ形で登場したり、「ヴァート世界」の設定がクロスオーバーしたりと、それなりに楽しめた。ただ、ルイス・キャロルその人についての知識があればもっと話に感情移入ができたのかもしれないと思う。これはそういう側面を持った話である。
図書館にルイス・キャロルの評伝があるのを見かけたのでそのうちに読んでみよう。読みたい本ばかりが増えて行く。で、訳者後書きを読むと『ヴァート』と『花粉戦争』はもう品切れ状態らしい。それはたぶん売れ行きが芳しくなかったからだと思われ、すると続編の翻訳は出してもらえないのかな、と心配になるのであった。