「五点リーダ」とは?

7月2日の日記に書いた件。

タイトルに「・」が付くものはその数をどうしたものかと以前から悩んでいる。根拠を書籍に置くのが正しいに決まっているのだが、それにしても例えば「ひとめあなたに…」の場合など、新書版は「・」が5個で文庫版は3個と異なっているのである。ご覧の通り「・・・・・絶句」も「・」が5個だ。3の倍数ならIMEでも変換されるのに、この5個というのはどのような慣習に基づいて使われているのだろうか。知識不足でこの「・」の使い方使われ方をよく知らないので困っている。

「素研管理人の雑録」2005/07/02:新井素子関連キーワード追加

これに関連する話題をid:stella_nfさんが日記に書いていた。

新井素子の『・・・・・絶句』は表紙表記では点が5つなんですが、二点リーダ三点リーダを組み合して『‥…絶句』にしなければなければならないのでしょうか。その場合二点リーダ三点リーダ、どっちを前にすればいいのでしょうか。

「情報倉庫」2005/07/10:教えて!モヒカン族

それについて、モヒカン族グループのg:mohican:id:tsupoさんが回答を寄せている。

早川書房の発行する書籍・文庫は、三点リーダの代わりに、「いわゆる全角2文字分の幅を持つ」五点リーダを使います。理由はわかりませんが、むかしからそうです。新井素子の件の小説のタイトルもそれにしたがって「校正」されてしまっただけでしょう。ですので、他の出版社から発売されることがあれば、三点リーダになったり、二点リーダになったりするかもしれません。
五点リーダについては、松永氏の「ウェブログことのは」(という名前だったころ)の、三点リーダ等の使い方に関する記事へのコメント投稿の形で指摘させていただきました。「早川書房」の名前は出しませんでしたが。

「tsupoの日記」2005/07/11:[雑記]五点リーダ

それは早川書房の流儀ですというのがtsupoさんの回答である。
なるほど、出版社のやり方なのかと感心し、では『・・・・・絶句』の本文にも「五点リーダ」が使用されているのかと確認してみると、違うのである。『・・・・・絶句』上巻(1983年)の第一部「PART I 夢であったらよかったのに」の冒頭部を抜き出してみよう。

「……のだった、まる、と。そして一郎は、てん、おもむろにその右手を、てん、信拓の肩先へのばし、てん……あーあ」
べりっ。かなり乱暴に原稿用紙をひきさく。

「五点リーダ」ではなく三点リーダを二つ並べて点が六個付いている。タイトルと本文でリーダの付け方が統一されていないことが判る。1987年にハヤカワ文庫JAから刊行された文庫版でも同様である。なぜこのような不統一が起こるのかが判らない。
「校正」されてしまっただけというのも納得しがたい点がある。例えば『・・・・・絶句』と同じく「五点リーダ」が使用されたタイトル、双葉社フタバノベルズ版の『ひとめあなたに・・・・・』(1981年)は、角川文庫から刊行された際(1985年)に確かに「校正」されて『ひとめあなたに…』と三点リーダ一個になったという該当事例はある。しかし逆のパターンで、大陸書房からハードカバーで出版された『今はもういないあたしへ…』(1988年)の文庫版が早川書房ハヤカワ文庫JAから刊行された際(1990年)には「五点リーダ」へと「校正」はされず、三点リーダ一個のタイトルのままで出版されているのである。となると早川書房がこうした「校正」を行う出版社であるという説もにわかには信用しがたいと思われる。「校正」されるのは三点リーダを二つ並べた「……」の場合だけなのだろうか。
先ほど双葉社の『ひとめあなたに・・・・・』の名前を出したが、この出版社でも「五点リーダ」を使用しているのを考えると、これが早川書房独自の流儀であるとも考えにくい。ちなみにフタバノベルズ版でもタイトルは「五点リーダ」だが、本文はやはり三点リーダを使用している。「〈練馬〉圭子――出発」の章の冒頭を抜き出してみよう。

ビール……じゃ、なかったな。大介ロックを、あたし水割りをかわるがわる呷って。大介は相当できあがってたみたいだし、あたしだって、素面だったなんて、絶対、言わない。とすると……。

タイトルは「五点リーダ」で本文では三点リーダを使う、なんていうルールがそれぞれの出版社には存在するんだろうか。ちなみに『・・・・・絶句』では本文中で三点リーダが使用されていると書いたが、では同じく本文中で其書のタイトルに言及した場合はどうか、と言うとこれがちゃんと「五点リーダ」になっているのである。上巻の「あとがき」より抜き出してみよう。

で。その時、必死になって書いたのが、この『・・・・・絶句』のもと原稿だったのです。

更に言えば、その他の自著、例えば『あたしの中の……』に言及した際には「校正」は行われておらず三点リーダ二個になっている。元々のタイトルは変更されずに忠実に表記されているようだ。このことからも「校正」説は怪しいのではないかと思わざるを得ない。
結局、この「五点リーダ」とは何なのか、なぜ「五点リーダ」が使われるのか、という最初の疑問に戻ってきてしまう。「五点リーダ」の使用法に関しては謎は深まるばかりである。
手掛かりとして、tsupoさんは松永氏の「ウェブログことのは」のコメント投稿で次のように書いている。

[No.14] 投稿者:tsupo[2004年01月06日 20:27]
三点リーダの件ですが、原稿用紙に手書きで書く場合は、二マス使って、点を5つ打つのが「正式」だと何かの本で読みました。
PC を使う場合は、仕方がないので三点リーダ2個で「代用」している、という話です。点を5つ打つのが正式だからといって、三点リーダ二点リーダを並べる(…‥)のはよくないとのこと。
何の本だったかなぁ?

「絵文録ことのは」2004/01/06:句読点の使い方

この「何かの本」が判れば真相に一歩近づけるんじゃなかろうか。図書館で原稿用紙の書き方の本を漁ってみようか。