桜坂洋『スラムオンライン』。

読了。購入本。ネット対戦格闘ゲームの世界と現実世界の間を不安定に漂う主人公が自分なりの居場所を見つけるまでを描いた青春小説。そう、何ら大仰な事件が起こることもなく主人公が血の涙を流したりすることもなく、淡々と一人の少年を取り巻く日常を描いた単なる青春小説である。読む前に特に期待もしていなかったので作品世界にはすっと入ることができた。それはよかったと思う。ハヤカワ文庫JAだからということで、『All You Need Is Kill』みたいなのを期待していたら、多分裏切られたと思っただろうから。
昔それなりに対戦格ゲーにはまったことのある自分としてはゲームの描写に懐かしさを感じるとともに、特に目的もなく愚直にゲームにはまり込もうとする主人公の姿に自分を重ねたりするという30代の男にあるまじき共感を抱いたりした。自分が何者でもないという不安定さ加減は現在でも他人事ではないのであった。故に主人公に軽い嫉妬心をも抱いたものである。うまく行きすぎだっつーの。まあ、ほどほどに楽しめた作品であった。
「青い猫」の話ですぐに萩原朔太郎の「青猫」を思い出したんだが、これは別に関係はないんだろうね。