「おたく」新井素子起源説。

鳥子氏の「トリニスケート情報局」より。作家の皆川ゆかが外国人のインタビューに答えて「おたく」という言葉の由来を語っているらしい。

皆川ゆかさんは、『機動戦士ガンダム公式百科事典』の著者としてインタビューを受けています。ケアリー父子が人生で初めて出会った「real otaku」は、ハイヒールの音も高らかに講談社のロビーに現れ、会議室で「オタクとは何ですか?」という問いに答えます。以下、超訳(カッコ内は私の注釈です)。

「80年代半ば、新井素子という日本のSF作家がいました。彼女の文体のクセの1つが、例えばフランス語の vous と同様に他人行儀な二人称である おたくを用い、非常に格式張って読者に呼びかけるものでした。彼女のファンはこの本が好きで、互いを”オタク”と呼び合うこの特異な用法を取り入れたんです」

「非常に敬った呼び方なんですね?」と私(ピーター・ケアリー)は尋ねた。

「No!」ゆかは英語で叫んだ。

チャーリーは私の質問に目をしばたかせた。

「今の”オタク”の使い方は」ポールが翻訳した。

「反対です。もう新井素子の散文をまねたファンの事ではありません。もはや愉快でもないです。尊敬でなく、差別的なものです。本来の意味を込めずにあなたを”サー”と呼ぶのに似ています。皮肉であり、嫌味です」

「オタク」という言葉がある界隈で使われ始めたのは新井素子さんが自作中で使っていたから、という説明である。
新井素子さんが登場人物に「おたく」という二人称を使わせているのは事実で、確かにそれに影響されて使い始めた人はいたのかも知れない。しかし起源を新井素子さんの小説のみで説明しようとするのは無理があると思った。
いわゆる「おたく族」が関心を持つと思われる分野では、小説ならば新井素子さん以前に平井和正の《ウルフガイ》シリーズ第1巻『狼男だよ』*1で主人公犬神明が「おたく」という二人称を使っているし、他にもアニメ『超時空要塞マクロス*2の登場人物が「おたく」を連発してたりとか、複数の起源がありそうに思う。それらの流れがSF大会とかコミケとかそういう人たちが集まる場でぐちゃぐちゃに混じり合い発酵した結果として定着したんではないかという気がする。
「おたく」という二人称を使う人間に会ったことがないので詳細はよく判らない。偶然読んだ竹熊健太郎のブログでは竹熊自身が「おたく」を使う人だったと書いてあったが、彼は何故「おたく」を使っていたんだろう。
有名サイトがアンケートを採ればいいんじゃないのかね。「おたく100人に聞きました。あなたが二人称”おたく”を使うようになったきっかけは何?」とか。人力検索はてなYahoo!知恵袋教えて!gooって手もあるか。まあでも自分ではやらない。
上のサイトで紹介されている本は読んでみたい。日本語訳は出ないものだろうか。

補足

『狼男だよ』で犬神明が「おたく」と言っていると上に書いたが、誰彼かまわず「おたく」と呼びかけているのではなく、冷笑的なニュアンスを含んだ場合に多く使われているようである。
新井素子さんはデビュー作の「あたしの中の……」から「おたく」という二人称を使用しているが*3、こちらも二人称が「おたく」で統一されている訳ではなく、場面や登場人物によって他の二人称(あんた、お前、等)と使い分けているのは『狼男だよ』と同じである。
計算してみると面白いかも知れない。
「おたく」登場率=作中の「おたく」使用数/作中の全二人称数*100

*1:主人公の犬神明新井素子さんの初恋の人。1969年に立風書房から出版された。その後は、1972年にハヤカワ文庫SF、1974年に祥伝社ノン・ノベル、1983年に角川文庫、1999年に角川春樹事務所、と各社から出版された。

*2:1982〜1983年放送。「おたく」の起源には、このアニメに参加したスタジオぬえ慶應幼稚舎出身のスタッフが使っていたのが広まった、とする説もあるようである。

*3:あたしの中の……」(1977年)では「おたく」。コバルト文庫デビュー作「いつか猫になる日まで」(1980年)では「お宅」。