「おたく」という二人称。

上で俺は実生活で「おたく」という二人称を使わないと書いたが、正確に言えば使うこともある。例えば、対話者の家庭の事情を話題にする時などは自分の家庭を「うち」と言うのに対して「お宅」と言う。また、ある団体を代表して対話をする時に、対話者の所属する団体を指して「お宅」と言うこともあった。前者は今でも使うが、後者は今は使わず、「そちら」とかもっと曖昧な言葉を使っている。(仕事上では「御社」だ)使わなくなった理由は新井素子さんが書き直したのと同じである。
俺が本来の使い方でない「おたく」を知ったのは新井素子さんの小説だったように思う。会話の軽さとか気取った雰囲気を表現する演出だと認識していたので、実際にそれを真似て使うことはなかった。「莫迦」をあくまで作中の表現としてしか認識しなかったので真似しなかったのとほぼ同じ理由である。その後、平井和正の『狼男だよ』を読んで主人公の犬神明が相手を「おたく」と呼んでいるのを知り、ああ、平井和正ファンの新井素子さんはこれを真似したのかと一人で納得していた。それは事実かどうか定かではないが、昔は二人称としての「おたく」は幅広く使われていたような気がする。シニカルさや軽さを強調するとかちょっと気取ってとかニュアンスはいろいろだが、要は人と違うことをしてカッコつけたい奴が使っていた言葉である。例証はない。あくまで個人的な感覚である。
後に、アニメ・漫画方面の中でも特に一部の人々が「オタク族」とか「オタッキー」などとコミュニティの中で差別的に呼ばれるようになり、例の事件で日本中にネガティブなイメージが固定した、と認識しているのだが世間的にどうなのかは知らない。大学でサークルの新歓活動をしていた時のこと。出店の場所取りのことで近所のサークルと話をしていて、「お宅は」と言ったら馬鹿にしたように笑われたのをよく覚えている。